電子カルテを導入する、判断の分かれ目

電子カルテを導入する、判断の分かれ目

電子カルテを入れるかどうかは、画面の使いやすさだけでは決まりません。紙でも電子でも変わらないものと、電子にすると確かに変わるもの。この2つを分けて置くと、判断の軸が立ちます。変わらない代表が、歯科医師法 第23条の記載と保存の義務です。変わる代表が、患者さんから開示を求められたときの出し方です。この記事は、その分かれ目を条文から並べます。

目次

紙でも電子でも、変わらないもの

この記事で読んだのは、歯科医師法と個人情報の保護に関する法律です。歯科医師法 第23条第1項は、歯科医師が診療をしたときは、その診療に関する事項を、遅滞なく診療録へ書き入れることを義務としています。第2項は、診療所に勤務する歯科医師のした診療に関する診療録について、その診療所の管理者が5年間 これを保存しなければならない、としています。

条文が求めているのは、遅滞なく記載することと、5年間 保存することです。紙か電子かは、この条文の中では分かれ目になっていません。ですから「電子にしたから記録が楽になる」という話と、「記録しなければならない」という話は、別々に置いて考えます。導入の理由を前者に置くのは構いませんが、後者が軽くなるわけではありません。医院を閉めたあとの記録の扱いは、閉院の手続きの順番を並べた記事で扱っています。

電子にすると、出し方が変わる

個人情報の保護に関する法律 第33条第1項は、本人が、自分が分かる形の保有個人データについて、開示を請求できるとしています。請求できる方法として条文が挙げているのは、電磁的記録を提供してもらうやり方と、そのほか個人情報保護委員会の規則が定めるやり方です。第2項は、請求を受けた事業者に、本人が選んだやり方で遅滞なく開示することを求めています。そのやり方だと多額の費用がかかるときなど、開示が難しい場合には書面を交付する形にする、と括弧の中で書き添えられています。

ここが、紙と電子で実際に差が出る場所です。本人が電磁的記録での提供を求めてきたとき、紙のカルテしか無ければ、そこから作る作業が要ります。第2項のただし書には、開示することで本人や第三者の生命・身体・財産といった権利利益を害するおそれがあるとき、あるいは その事業者の業務を適正に行ううえで著しい支障が出るおそれがあるときは、全部または一部を開示しないことができる、という定めも置かれています。

先に決めておく、手続の公表

同法 第32条第1項は、保有個人データに関して、号に挙げた事項を本人の知り得る状態に置かなければならない、としています。本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む、と括弧が付いています。号に挙がっているのは、事業者の氏名または名称と住所、法人ならその代表者の氏名。すべての保有個人データの利用目的。開示などの請求に応じる手続。そして、これらのほか政令で定めるものです。

手数料の額を定めたときは、その額もこの中に含まれると条文は書いています。つまり、開示を求められてから手続を決めるのではなく、先に決めて見える状態にしておく、という並びです。電子カルテの導入は、この手続を書き直すよい機会になります。

分かれ目に置く、4つの問い

  1. いまの記録は、遅滞なく書けているか。歯科医師法 第23条第1項が求めているのはここです。電子にして速くなるのか、それとも入力が増えて遅くなるのかを、先に見ます
  2. 5年間 保存できる形になっているか。紙の置き場所と、電子の保存先。どちらも5年という期間で考えます
  3. 開示を求められたとき、何日で出せるか。第33条第2項は遅滞なく開示することを求めています。いまの体制で何日かかるかを、一度 数えます
  4. 手続を、本人の知り得る状態に置いてあるか。第32条第1項の話です。院内の掲示かホームページか、置き場所を決めます

この4つに答えが出てから、製品を比べるほうが、比べる項目がはっきりします。逆にすると、画面の印象で決めることになります。クラウド型を選ぶなら、患者のデータをクラウドに置くときの記事で、医院の側に残る義務を整理しています。個別の事案が条文に当たるかどうかや、保存の方法に関する省令上の要件については、所管の窓口や専門家にご確認ください。この記事は、条文に書いてあることを並べたものです。

参考にした情報源

上のリンク先は、デジタル庁が運営する e-Gov法令検索の条文ページです。この記事に書いたことは、そこに表示される条文と一つずつ突き合わせられます。条文は改正で変わります。最終確認は、そのときの原文でお願いします。

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この記事を書いた人

近藤 宏海のアバター 近藤 宏海 代表取締役

近藤 宏海(こんどう ひろみ)/株式会社ガラパゴスワークス 代表取締役。歯科医院の開業から日々の運営まで、事務の現場を担ってきました。自社で歯科医院向けのWebアプリ「事務長AI」と、歯科医師向けアプリ「シカノバ」を開発・運営しています。

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