電子カルテが止まった日に、何をするか

電子カルテが止まった日に、何をするか

電子カルテが開かない朝に、何をどの順番でやるか。決めておけるのは、止まる前だけです。厚生労働省のガイドラインは、非常時の原因を3つに分けたうえで、通常時から用意しておく内容を表にしています。この記事は、その表を歯科医院の大きさに合わせて読み直します。

目次

扱っているのは、第11章です

参照するのは 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版 企画管理編(厚生労働省)の第11章です。章の題は「非常時」対応とBCP策定で、括弧の中に災害、サイバー攻撃、システム障害の3つが添えてあります。検索で古い版が上に出ることがあるので、表紙の版数を見てから読むこと。ここで扱うのは第7.0版です。

この章の遵守事項は9つあります。以下は、それぞれの要点を当社が短く言い直したものです。①非常時の対応方針と手順を整理してBCPを作り、方針には非常時の定義と、通常時へ戻すための計画まで入れて、経営層の承認をもらう。②医療機関等が別に持っている非常時の定義やBCPと食い違わないかを見る。③非常時に法令が求めてくる対応を、起きる前に洗い出して体制にしておく。④各種の規程にも、非常時の手順と内容を書き入れる。⑤担当者に対策の実装と文書の整備を指示し、できているか確かめる。⑥職員と外部の関係者に教育を行い、訓練は定期的に。結果や評価は手順へ戻す。⑦対応の状況を定期的に確かめ、経営層へ報告して承認をもらう。⑧非常時には安全管理の状況をその都度つかんで経営層へ上げ、説明責任を果たすための報告と広報を行う。⑨終わったら事後検証をして、経営層へ報告し承認をもらい、その結果を手順へ反映する。

歯科医院では、経営層も企画管理者も担当者も、同じ院長ということがあります。それでも、承認を得る相手と報告する相手が条文の上で分かれていることは、記録を残す理由になります。誰が決めたかを後から示せるかどうかが、事後検証の材料になります。

最初に決めるのは「非常時」の意味です

11.1 は、対応方針の策定です。3つの原因のどれかが起きたとき、経営層と、非常時の意思決定担当者とが、総合的に判断する必要があるものとして2つが挙げられています。ひとつは、医療サービスの提供をどう続けるか。もうひとつは、どの医療情報システムを、どう使うかです。

そのうえで、「非常時」という言葉が何を指すのかを、あわせて明らかにすることが求められる、と書かれています。同節によれば、何が起きたら非常時と呼ぶのかを先に決めておくことが、方針の一部として置かれています。1台だけ動かないのか、全部が開かないのか。その線を引かないと、誰も号令をかけられません。

原因を3つに分けて考える

表11-1 は、非常時の発生原因を災害、サイバー攻撃、システム障害(ネットワーク障害を含む)の3つに分け、必要な対応を並べています。

  • 災害 ── 発生時のフェールセーフ、復旧や復帰に向けた対応、資源配分や運用規模の変更など
  • サイバー攻撃 ── 被害状況の把握、証拠と証跡の保全、被害拡大の防止、原因の究明、復旧計画の策定など
  • システム障害 ── 障害状況の把握、原因究明、復旧や改修の計画策定など

サイバー攻撃の行にだけ、証拠と証跡の保全が入っています。同表によれば、サイバー攻撃では、急いで復旧させることと、証拠を残すことが同じ列に並びます。11.2 の本文にも、バックアップの設計と確保は原因によって中身が変わる、という説明があります。災害なら大規模災害まで視野に入れた形になり、サイバー攻撃では、攻撃に耐えられるか、業務を続けられるか、という観点からの対応が要る、という書き分けです。

通常時から用意しておくもの

表11-2 が、原因ごとの通常時からの対策例です。項目が多いので、以下は、そのうち院内で手を動かせるものを拾ったものです。表にはこのほか、冗長化やCSIRTの整備など、体制と設備に関わる項目も並んでいます。

  • 情報システム・サービスを安全に停止するための手順の整備(災害)
  • 発災直後の運用から、ふだんの運用へ戻していく手順の整備(災害)
  • バックアップの整備。括弧の中に、大規模災害等を想定した遠隔保管を含む、と添えてあります(災害)
  • 利用者など関係者の教育・訓練(災害、サイバー攻撃の両方に出てきます)
  • 攻撃を受けたときに切り替える運用や手段を、先に押さえておくこと(サイバー攻撃)
  • 医療情報システムに関する書きもの一式の整備。構成、設定、手順などが例として挙がっています(サイバー攻撃)
  • 長期間にわたる障害の場合の方針や手順の整備(システム障害)

「長期間にわたる障害の場合の方針」は、小さな医院ほど読む価値があります。半日で戻るのか、何日も続くのか。長引いたときの決めごとは、別に要ります。同表は、その2つを分けて用意することを挙げています。

紙に戻す手段は、技術側の編に書かれています

同じ第7.0版の システム運用編 第11章の遵守事項 ①(4) に、マルウェアが入り込んだ場合に備えた代替手段が挙げられています。例として書かれているのは、関係先への連絡手段と、紙での運用です。

同じ号の ①(6) は、重要なファイルについて、数世代ぶんを複数の方式で確保し、その一部はマルウェアの影響が波及しない手段で管理したうえで、復元手順の整備まで求めています。取ってあることと、戻せることは別だ、という書き方です。①(5) は、論理的または物理的に構成を分離したネットワークの整備です。

同編は、バックアップデータについて注意も添えています。特にサイバー攻撃の場合、バックアップデータにもマルウェアの混入による影響が及んでいる可能性が高く、不用意にそこから復旧すると被害を広げるリスクがある、という内容です。同編によれば、戻すこと自体が判断を要する行為として置かれています。ランサムウェアに備えて先に決めておくことは、IPAの教訓集をもとに別の記事で整理しています。

起きたあとに残る仕事

11.3 は非常時の対応です。あらかじめ準備した手順に基づいて対応する必要がある、としたうえで、事前に想定していない事象が起きることもありうるので、想定外の状況に対する方針もあらかじめ定めておく必要がある、と書かれています。

そして遵守事項の ⑨ です。ここが3段になっています。対応した内容を事後に検証すること。それを経営層へ報告して承認をもらうこと。そして、検証の結果や評価を、適宜、非常時の手順などへ反映させること。同項によれば、終わったあとに手順を書き直すところまでが、一続きの仕事として置かれています。

小さな医院で、今日 決められること

以下は、上に引いた箇所から当社が整理した順番です。ガイドラインがこの順序を定めているわけではなく、これですべてでもありません。

  • 何が起きたら「非常時」と呼ぶか ── 線を1つ引く
  • その日、最初に誰へ連絡するか ── 業者の番号を、画面の中だけに置いていないか
  • 紙で回すときに何が要るか ── 予約表、問診票、レセプト関係の控え
  • すぐ戻る場合と、長引いた場合を分けて決めてあるか
  • バックアップから戻す判断を、誰がするか
  • 終わったあと、誰が振り返りを書くか

まとめ ── 順番は、止まる前にしか決められません

ガイドラインは、非常時の定義を先に決めること、原因を3つに分けて考えること、通常時から手順とバックアップと訓練を用意すること、そして終わったあとに検証して手順へ反映することを並べています。止まっている最中にできるのは、決めてあったことを実行することだけです。紙に何を用意しておくかという、いちばん地味な部分が、その日の診療の量を決めます。

参考にした情報源

この記事は、ガイドラインのうち非常時の対応とBCPに関わる箇所を抜き出して並べたものです。サイバーセキュリティ、認証・認可、保守委託、クラウドの利用については、それぞれ別の章と別の編に定めがあります。診療録の保存や、非常時における法令上の対応には、別の法令の定めが関わります。ガイドラインは改定されます。実際に手順を作る前に、最新版の本文と、導入している事業者にご確認ください。

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この記事を書いた人

近藤 宏海のアバター 近藤 宏海 代表取締役

近藤 宏海(こんどう ひろみ)/株式会社ガラパゴスワークス 代表取締役。歯科医院の開業から日々の運営まで、事務の現場を担ってきました。自社で歯科医院向けのWebアプリ「事務長AI」と、歯科医師向けアプリ「シカノバ」を開発・運営しています。

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