「歯科材料の発注、いくら漏れているか」。この問いに、正直に答えると「分かりません」です。数えていないからです。ただし、漏れたときにどれくらい効くのかは、公的な数字から計算できます。この記事では、材料費が医院の利益に対してどれくらいの重さなのかと、材料の値段が実際にどう動いたかを、厚生労働省の資料で確かめます。
材料費は収益の7.1%、利益は5.5%
中央社会保険医療協議会の第25回医療経済実態調査によると、歯科診療所(医療法人)の令和6年度の構成比率(医業・介護収益に占める比率)は、次のとおりです。
| 項目(歯科診療所・医療法人) | 令和5年度 | 令和6年度 |
|---|---|---|
| 給与費 | 49.4% | 49.1% |
| 委託費 | 9.3% | 9.4% |
| (再掲)歯科技工委託費 | 7.7% | 7.8% |
| 歯科材料費 | 7.0% | 7.1% |
| 医薬品費 | 0.9% | 0.9% |
| 医業・介護費用(合計) | 94.6% | 94.5% |
| 損益率(平均値) | 5.4% | 5.5% |
この表を、並べ替えて読んでみます。歯科材料費 7.1% に対して、損益率は 5.5%。材料費のほうが大きいのです。
ここを、割り算をせずに読んでみます。医院に残る利益より、材料に出ていくお金のほうが大きい。これは、材料の単価が動いたとき、利益のほうが先に、そして大きく動くということです。どれくらい動くかは医院ごとに違うので、私たちは倍率を書きません。書けるのは、材料費が利益より重い場所にある、ということまでです。
なお個人立の歯科診療所の損益率(平均値)は令和6年度で27.6%と、医療法人よりかなり高く出ます。ただしこれは、調査の注記にあるとおり、院長など開設者の報酬にあたる部分が費用に入っていないためであって、もうかっているという意味ではありません。院長の報酬が、この27.6%の中に入ったままです。
告示価格は、3,299円から4,779円へ動きました
歯科用貴金属は、金・銀・パラジウムの素材価格に連動して、診療報酬改定のとき以外にも「随時改定」で告示価格が見直されます。厚生労働省の資料によれば、この見直しは変動幅にかかわらず、平均素材価格に応じて、診療報酬改定のとき以外に6月・9月・12月・3月に行われます。
その実際の動きが、次の表です。歯科鋳造用の金銀パラジウム合金(金12%以上・JIS適合品)の1グラムあたりの価格です。
| 随時改定の時期 | 1gあたり |
|---|---|
| 令和7年6月 随時改定(告示価格) | 3,299円 |
| 令和7年9月 随時改定(告示価格) | 3,445円 |
| 令和7年12月 随時改定(告示価格) | 3,802円 |
| 令和8年3月 随時改定(告示価格案) | 4,779円 |
令和7年6月の告示価格は3,299円、令和8年3月は4,779円(告示価格案)です。この2つを並べて見てください。ここが動いたぶんは、そのまま仕入の側にも来ます。
なお、この価格改定は実際に行われました。厚生労働省保険局医療課の事務連絡(令和8年1月30日)は、歯科用貴金属材料の材料価格改定を行い、関連する通知を改正して「令和8年3月1日から適用する予定」としています。この改正後は、たとえば大臼歯の全部金属冠に金銀パラジウム合金(金12%以上)を用いた場合の使用歯科材料料が1,682点となっています。
「償還価格」と「仕入値」は、別のものです
ここが、いちばん取り違えられるところです。上の表の告示価格は「保険で戻ってくる側」の値段です。国が決めています。一方、先生が実際にディーラーに払う値段は、国が決めていません。医院ごと、契約ごと、時期ごとに違います。
そして動く速さが違います。戻ってくる側は、6月・9月・12月・3月の見直しでしか動きません。払う側は、素材相場に合わせて、それより細かく動きます。その差は、医院の持ち出しになります。見直しと見直しのあいだに仕入値が上がっても、その分の点数は次の改定まで上がりません。
ここで、書けないことを書いておきます。同じ商品がディーラーによって何%違うのかを、私たちは医院をまたいで数えていません。だから書きません。◯割 違うことも珍しくありません、と書けば記事らしくなりますが、それは私たちが確かめた数字ではありません。発注の二重や頼み忘れが月に何件 起きているかも、同じ理由で書きません。
確かなことだけ書きます。単価の一覧を持っていない医院は、単価が上がったことに、請求書が届くまで気づけません。金パラのように、告示価格が3,299円から4,779円まで動く素材があり、その告示価格は6月・9月・12月・3月にしか動かない。この2つが同時に起きている以上、気づくのが遅いことのコストは、確実にあります。
今日からできる3つのこと
- 同じ商品を、同じ単位に揃えて並べる。「1箱いくら」では比べられません。規格・入数をそろえて、1本あたり・1gあたりまで割り戻します。これをやるだけで、比べられる品目と比べられない品目が分かれます
- 発注した日・入った日・そのときの単価を、1つの場所に残す。紙でも構いません。大事なのは「単価が残っていること」です。請求書の束は、単価の推移を見るようにはできていません
- 金額の大きい上位20品目だけ、告示の見直しに合わせて単価を見る。全品目をやろうとすると続きません。6月・9月・12月・3月と決めてしまえば、いつ見るかを毎回 考えずに済みます
1と2が終わったとき、はじめて「うちはいくら漏れていたか」が、自分の医院の数字として出てきます。その数字は、この記事には書けません。先生の医院にしかありません。
参考にした情報源
- 厚生労働省・中央社会保険医療協議会「第25回医療経済実態調査の概要(令和7年11月26日版)」(歯科診療所の構成比率・損益率)
- 厚生労働省・中央社会保険医療協議会「歯科用貴金属価格の随時改定について」(中医協 総-5/令和8年1月)
- 厚生労働省保険局医療課 事務連絡(令和8年1月30日)使用歯科材料料の算定についての一部改正(材料価格基準の一部改正にともなうもの)
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