注射針や血の付いたガーゼを業者に引き取ってもらっても、その廃棄物の責任は医院から離れません。環境省の感染性廃棄物処理マニュアルは、委託した場合でも、排出した側が処分されるまでの責任を負う、と説明しています。だから業者を選ぶ場面と、契約書を交わす場面で、医院が確かめることが法令で決まっています。この記事は、マニフェスト(管理票)の回し方ではなく、その手前の「どの業者と、どういう契約を結ぶか」を、経営の側から並べます。
任せる相手は、許可を持つ業者に限られる
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、廃棄物処理法)第12条の2第5項によると、医院が特別管理産業廃棄物の運搬を他人に頼むときの相手は、第14条の4第12項の「特別管理産業廃棄物収集運搬業者」です。処分を頼むときの相手は、同じ項の「特別管理産業廃棄物処分業者」です。どちらにも、環境省令で定める者が並べて挙げられています。運搬と処分で、相手の資格が分けて書かれています。
医院から出る感染性廃棄物は、法律の上で区分が分かれています。環境省のマニュアルは、廃棄物を産業廃棄物と一般廃棄物に分け、それぞれを特別管理のものとそれ以外に分ける、と整理しています。ここからは筆者の読み方です。この記事で扱うのは、上の第12条の2が当たる感染性の産業廃棄物の委託です。感染性の一般廃棄物について、マニュアルは、まず医院のある市町村がどう処理しているかを確かめるよう求めています。市町村が処理していない場合、医院は自分で処理するか、市町村長から許可を得ている一般廃棄物の処理業者に委託しなければなりません。
許可証の写しで見るところ
マニュアルは、委託するときは業者が出した許可証の写しなどで、次の事項を必ず確かめるよう求めています。
- 業の区分 収集運搬業か、処分業か
- 扱える廃棄物の種類 許可品目に「感染性産業廃棄物」が入っているか
- 許可の条件 作業時間など
- 許可の期限
- 積替え・保管をするか 運搬を任せる場合。するなら、その場所の所在地、保管できる種類、保管の上限
- 処理施設の種類と処理能力 処分を任せる場合
マニュアルはこのあとに「その他」も置いていて、上の6つで終わりとはしていません。期限については注記があり、この業の許可は5年、優良認定を受けた業者なら7年で切れるので気をつけるように、とされています。契約を結んだ日に見た許可証が、契約の途中で期限を迎えることがあります。期限の日を控えておき、その前に更新後の写しを受け取る段取りにしておくと、確かめ忘れを防げます。
運搬の許可は、どこの自治体の許可かも見ます。マニュアルの例では、A県の病院がB県の処分業者に焼却を頼み、そこまでの運搬を別の業者に頼む場合、運搬の業者に要る許可はA県知事とB県知事の両方の収集運搬業の許可だ、としています。積む側と降ろす側の両方です。
契約は書面で、業者ごとに直接結ぶ
マニュアルは、収集運搬業者や処分業者に委託するなら、前もってその業者と、書面で直接の委託契約を結ばなければならない、としています。運搬と処分をそれぞれ委託する、という書き方なので、運搬と処分を別の会社が行う場合は、医院はその両方と契約を結ぶことになります。
契約書に入れる条項は、廃棄物処理法施行令 第6条の2第4号と、廃棄物処理法施行規則 第8条の4の2に並んでいます(感染性の産業廃棄物には、施行令 第6条の6第2号と施行規則 第8条の16の3で読み替えて当てはめられます)。マニュアルはこれを、番号を振った一覧にまとめています。問いの形に言い換えて並べると、こうなります。
- 何を、どれだけ任せるか(廃棄物の種類と数量)
- 運搬を任せるなら、どこまで運ぶか(最終目的地の所在地)
- 処分を任せるなら、どこで、どの方法で処分するか(場所の所在地・方法・施設の処理能力)
- 中間処理を任せるなら、その後の最終処分をどこで、どの方法でするか(所在地・方法・施設の処理能力)
- 契約がいつまで有効か
- 料金(医院が業者に払う額)
- 業者の持つ許可の、事業の範囲
- 運搬の業者が積替えや保管をするなら、その場所と、置ける種類と、保管の上限
- 処理に要る情報として、性状と荷姿、ふだんの保管で起きる変化(腐敗や揮発など)、ほかの廃棄物と混ざったときの支障、そのほか扱うときの注意
- 9の情報が契約の途中で変わったら、どう伝えるか
- 業務が終わったら、業者は医院にどう報告するか
- 途中で契約を解除したら、まだ処理が済んでいない廃棄物をどうするか
そのうえで、業者がその運搬や処分を業として行えることを示す書面(例として許可証の写し)を、契約書に添付しておくことが求められています。業者が用意してきた書式に署名するだけだと、一覧の項目が埋まっているかを誰も見ないまま綴じることになります。署名の前に、この一覧と照らし合わせるのは医院の仕事です。
渡す前に、文書で知らせておくこと
感染性の産業廃棄物には、契約書とは別の決まりがもう1つあります。廃棄物処理法施行令 第6条の6第1号によると、特別管理産業廃棄物の運搬や処分を委託しようとする者は、その相手に対して、あらかじめ、種類・数量・性状その他の環境省令で定める事項を文書で通知しなければなりません。施行規則 第8条の16は、その事項として、種類・数量・性状及び荷姿と、取り扱う際に注意すべき事項を挙げています。
ここからは筆者の読み方です。鋭利なものをどの容器に入れて出すか、血液の付いたものをどう梱包するか。医院の中で決めている出し方を、そのまま文書にしておけば、この通知と、契約書の9番目の情報の両方に使えます。
料金の安さだけで選ぶと、何が医院に返ってくるか
廃棄物処理法 第12条の2第7項は、委託した事業者に、処理の状況を確認し、発生から最終処分が終わるまでの一連の行程で処理が適正に行われるよう、必要な措置を講ずる努力を求めています。
マニュアルの説明では、この注意を怠ったときは、委託基準やマニフェストの決まりを守っていても、条件しだいで医院の側が措置命令を受けることがあります。条件として書かれているのは、まず、実際に不適正な処分をした者の資力などから見て、その者だけでは命令が果たされる見込みが無いこと。そのうえで、医院が処理にふさわしい費用を払っていなかった場合や、不適正な処分に気づいていた、または気づくことができた場合など、医院に原状回復などをさせるのが適当と認められる事情があることです。
そのうえでマニュアルは、医療関係機関等が講じる措置として次の3つを挙げています。
- 技術的な能力や経理的な基礎を欠いているなど、不適正な処理をするおそれのある業者に委託しない
- 適正な処理に必要な料金を負担する
- 不適正な処理が起きると知ったら、委託をやめるなど状況に応じて適切に動く
見積もりを比べるときの物差しは、金額だけでは足りません。相場から大きく外れて安い見積もりは、そのまま「適正な処理費用を負担していたか」という問いにつながります。マニュアルは、業者や処理料金の状況をつかめるよう、都道府県・市町村・廃棄物処理の関係団体などから情報を集め、委託の前から注意を払う必要がある、としています。
契約が終わってからも、5年残す
廃棄物処理法施行規則 第8条の4の3は、委託契約書の保存期間を5年と定めています。第8条の16の4が、これを特別管理産業廃棄物の契約書にも当てはめています。マニュアルも、契約書と、それに添えた書面を、契約が終わった日から数えて5年間は手元に置くことを義務として書いています。数え始めは、契約を結んだ日ではなく終わった日です。業者を替えたら、古い業者の契約書は、そこから5年は捨てられません。
契約の途中で業者の側に事故や廃業、行政処分などが起きたとき、マニュアルは、業者からその旨の通知が来たら、処理の状況をつかんで適切な措置を講じなければならない、としています。処理が終わった旨のマニフェストが戻っていなければ、通知を受けた日から30日以内に、都道府県知事または政令市長へ報告書を出すことになります。
業者との契約を見直すときに、院内で確かめること
- いま契約している業者を、運搬と処分に分けて書き出す。別の会社なら、両方と書面の契約があるかを見ます
- 許可証の写しの期限を見る。期限が過ぎた写しのままなら、新しい写しを受け取ります
- 許可品目に感染性産業廃棄物が入っているかを見る。運搬の許可は、積む側と降ろす側の都道府県の分があるかも見ます
- 契約書を上の一覧と照らし合わせる。料金・有効期間・解除したときの扱いが空欄になっていないかを見ます
- 種類・数量・性状と荷姿・注意事項を書いた通知の文書があるかを見る。無ければ、院内の出し方を書き起こすところからです
- 過去に契約していた業者の契約書の置き場所を決める。終わった日から5年です
どれも院長の手元で並べられることです。そのうえで、契約書の文面や個別の当てはめは、都道府県や政令市の廃棄物の担当窓口、または専門家に確かめてください。当社は廃棄物処理の法的な判断をしません。
契約の満了日や許可の期限のように、たまにしか来ない締切を、タスクや今日やることとして院内で持てるようにする道具として、当社は事務長AIを作っています。
参考にした情報源
- デジタル庁 e-Gov法令検索 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号) ── 第12条の2(第5項〜第7項)
- デジタル庁 e-Gov法令検索 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(昭和四十六年政令第三百号) ── 第6条の2(第4号・第5号)、第6条の6
- デジタル庁 e-Gov法令検索 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(昭和四十六年厚生省令第三十五号) ── 第8条の4、第8条の4の2、第8条の4の3、第8条の16〜第8条の16の4
- 環境省 廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル(令和8年4月) ── 5.1 委託契約、排出事業者の責任と措置命令、契約書の保存
※ この記事は、上に挙げた資料を当社が確認した時点の記載だけをもとに書いています。法令も資料も改正されます。最終確認は、そのときの原文でお願いします。個別の事案の当てはめは、都道府県等の廃棄物の担当窓口にご確認ください。
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