スタッフの健診結果、院長はどこまで見てよいか

スタッフの健診結果、院長はどこまで見てよいか

スタッフの健康診断の結果票が、医院に届く。院長が封を開けて全部読んでよいのか、誰が、どこに、いつまで置くのか。労働安全衛生法は、事業者が労働者の心身の状態に関する情報を扱えるのは健康の確保に必要な範囲だ、と定めています。そのうえで厚生労働省の指針は、人数の少ない事業場でも、扱い方を「取扱規程」として定めることを求めています。この記事は、健診を受けさせたあと、その結果を医院の中でどう扱うかを、経営の側から並べます。

目次

第104条が定めていること

労働安全衛生法第104条第1項によると、事業者がこの法律などに基づく措置を行うにあたって、スタッフの心身の状態の情報を集めるときは、健康を確保するのに必要な範囲の中で集めなければなりません。保管と使用も、集めた目的の範囲の中で行うことになります。ただし書により、本人が同意している場合と、それ以外に正当な事由がある場合は、この制限は外れます。

同じ条の第2項は、事業者に、その情報をきちんと管理するのに要る措置をとることを義務づけています。第3項は、厚生労働大臣がそのための指針を公表する、としています。この第3項に基づいて出ているのが、労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針(平成30年公示、令和4年改正)です。以下、単に指針と呼びます。

指針は冒頭で、健康診断などを通じて事業者が得た心身の状態の情報は、大半が個人情報保護法の「要配慮個人情報」に当たる機微な情報だ、と書いています。

指針は、情報を扱いの原則ごとに分けている

指針は、心身の状態の情報を扱いの原則ごとに分類した表を載せています。例として挙げられているものから、歯科医院で出てきそうなものを拾うと、こうなります(表には長時間労働者の面接指導やストレスチェックに関わるものなど、ほかの例も載っています)。

分類例扱いの原則(要約)
①事業者が必ず扱う情報健診を受けたか・受けていないか/健診の事後措置に関して医師に聴いた意見目的に要る範囲を踏まえ、事業者の側で扱う必要がある
②本人の同意なしに集められるが、扱い方を規程で決めておく情報健診の結果(法定の項目)/法定の項目と同じ再検査の結果扱う人を限る、情報を加工するなど、内部での扱いを取扱規程に定める
③あらかじめ本人の同意が要る情報健診の結果(法定外の項目)/精密検査の結果/がん検診の結果/通院の状況など個人情報保護法に沿った扱いのため、取扱規程に則って対応する
厚生労働省 指針 2(9)の表から、当社が一部を拾って言い換えたものです。

ここからは筆者の読み方です。医院が費用を出して、法定の項目に検査を上乗せしている場合、上乗せした項目の結果は③の側に入ります。同じ1枚の結果票の中に、同意なしに扱えるものと、同意が要るものが混ざることがあります。受診の案内を出す段階で、どこまでを医院が受け取るのかを決めておかないと、届いた紙をそのまま全部読むことになります。

指針は、①や②のように同意なしに集められる情報であっても、扱う目的や方法をスタッフに知らせたうえで集めることが必要だ、としています。スタッフが自分から出してきた情報は同意があったものと受け止められるが、その情報について医院が医療機関に直接問い合わせるなら、別に本人の同意が要る、とも書いています。

取扱規程に書く9つの事項

指針は、取扱規程で決めておく事項として、具体的には次のものが考えられる、と9つを挙げています。

  1. 何のために扱うか、どう扱うか
  2. 誰が扱い、その人にどんな権限があり、どの範囲の情報を扱うか
  3. 目的などをどう知らせ、本人の同意をどう取るか
  4. どう適正に管理するか
  5. 開示・訂正など、使用停止などの求めにどう応じるか
  6. 第三者に渡すときの方法
  7. 事業の承継や組織の変更のときの引継ぎ
  8. 扱いについての苦情をどう処理するか
  9. 取扱規程をスタッフにどう周知するか

7番目の「事業承継、組織変更」は、医院の経営の話そのものです。ここからは筆者の読み方です。個人立から医療法人にする、分院を出す、医院を引き継ぐ。そのときに、過去のスタッフの健診の記録を誰がどう引き継ぐかを、先に書いておける場所です。個人立から医療法人にするときに何が変わるかは、医療法人にするかどうかの分かれ目で扱っています。

小さな医院では、院長が直接扱う形もある

指針は、衛生委員会を置く義務のない常時50人未満の事業場を「小規模事業場」と呼び、その場合の作り方を別に書いています。事業者は、必要に応じて、安衛則(労働安全衛生規則)第23条の2が定める、関係する労働者から意見を聴く機会などを使い、スタッフの意見を聴いたうえで取扱規程を定め、スタッフと共有することが必要だ、とされています。

では、院長が結果を見てよいのか。指針の2(10)は、小規模事業場で表の②に当たる情報を扱う方法の例を挙げています。1つは、衛生推進者を選んでいるなら、その人に任せる方法。もう1つは、取扱規程に沿って適切に扱うことを条件に、事業者が自分で、扱う情報の範囲を絞らずに直接扱う方法です(指針はほかの方法も「等」として含めています)。院長が直接扱う形は、取扱規程に基づくことが条件です。規程が無いまま全部を読んでいる状態とは、別のものです。

規程の書き方は、厚生労働省の取扱規程を策定するための手引き(2019年3月)に、常時使用する労働者が10人以上の事業場と10人未満の事業場に分けた例が載っています。一から書き起こさずに、この例を医院の実際に合わせて直すところから始められます。

結果を理由に、してはならない扱い

指針の2(8)は、情報の扱いにスタッフが同意しないからといって不利益に扱うこと、また、健康確保措置と安全配慮義務を果たすのに要る範囲の外で不利益に扱うことは、あってはならない、としています。そのうえで、一般的に合理的とはいえないので原則として行ってはならないものとして、情報の扱いに同意しないことや、情報の内容を理由とした次のような措置を挙げています。

  • 解雇
  • 期間の定めのある人の契約を更新しないこと
  • 退職を勧めること
  • 不当な動機や目的でされたと見られる配置転換や、役職の変更
  • そのほか、労働契約法など、労働関係の法令に反する措置

指針は、理由がこれら以外であっても、実質的にこれらに当たるなら行ってはならない、とも書いています。健診の事後措置として働き方を変えるときは、医師の意見を聴くなど法令が求める手順を踏むことも、同じ項で挙げられています。

健診の事務をするスタッフにも、守ることがある

労働安全衛生法第105条は、健康診断(第66条の第1項〜第4項によるもの)などについて、実施の事務に携わった者に、その実施を通じて知った労働者の秘密を漏らすことを禁じています。

ここからは筆者の読み方です。受付や事務のスタッフに健診の予約や結果票の受け渡しを任せるなら、その人がこの条文の側に立つことになります。取扱規程の2番目(誰が扱い、どの範囲か)を決めるときに、事務を任せる人の名前と、その人が見てよい範囲を一緒に書いておくと、任せる側も任される側も迷いません。

健康診断をいつ、誰に受けさせるかの基本は、当社が運営する事務長AIのブログの歯科医院の健康診断 ── 年1回と、パートはどこからにまとめています。

次の健診の前に、院内で決めること

  1. いま結果票がどこに届き、誰が開け、どこに置いているかを書き出す。院長の机の引き出し、事務の棚、健診機関からのメール。場所を1つずつ挙げます
  2. 健診の項目を、法定の項目と上乗せした項目に分ける。上乗せした項目の結果を医院が受け取るなら、本人の同意の取り方を決めます
  3. 誰が扱うかを決める。院長が直接扱うのか、担当を置くのか。事務を任せる人と、その人が見てよい範囲も決めます
  4. 手引きの10人未満の例を、医院に合わせて直す。9つの事項が埋まっているかを見ます
  5. スタッフの意見を聴いて、決めたものを共有する。受診の案内に、目的と扱い方を書き添える形にしておきます

どれも院長の手元で並べられることです。そのうえで、規程の文面や個別の当てはめは専門家の領域です。当社は労務や個人情報の法的な判断をしません。書き出したものを持って、顧問の社会保険労務士や、最寄りの労働基準監督署、産業保健総合支援センターに確かめてください。

決めた規程を院内のマニュアルとして置き、お知らせでスタッフに届ける。そうした院内の決まりごとを、ひとところにまとめる道具として、当社は事務長AIを作っています。

参考にした情報源

※ この記事は、上に挙げた資料を当社が確認した時点の記載だけをもとに書いています。法令も指針も改正されます。最終確認は、そのときの原文でお願いします。個別の事案の当てはめは、労働基準監督署または社会保険労務士にご確認ください。

院長の事務を、ひとつの画面に

発注・経理・勤怠・日報・レセプトの返戻・分院の数字を、ひとつの画面にまとめた歯科医院向けWebアプリ「事務長AI」を、当社で開発・運営しています。歯科経営全体のご相談は、歯科経営支援のページにまとめています。

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この記事を書いた人

近藤 宏海のアバター 近藤 宏海 代表取締役

近藤 宏海(こんどう ひろみ)/株式会社ガラパゴスワークス 代表取締役。歯科医院の開業から日々の運営まで、事務の現場を担ってきました。自社で歯科医院向けのWebアプリ「事務長AI」と、歯科医師向けアプリ「シカノバ」を開発・運営しています。

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