求人票に月給を書くとき、医院が実際に払うのは、その額面だけではありません。健康保険と厚生年金は半分ずつ、子ども・子育て拠出金は医院だけ、雇用保険は医院のほうが多め、労災保険は医院だけ。給与の上に乗るものは、掛かる元も、負担の割り方も、1つずつ違います。この記事は、加入の義務がどこからかではなく、1人雇うときの人件費を見積もる側から、何が乗るのかを法令と公的機関の資料で並べます。
給与の上に乗るものの一覧
| 項目 | 掛かる元 | 医院の負担 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 健康保険(子ども・子育て支援金率を含む。介護保険の第2号被保険者は介護保険料も) | 標準報酬月額・標準賞与額 | 半分 | 健康保険法 第156条・第161条 |
| 厚生年金保険 | 標準報酬月額・標準賞与額 | 半分 | 厚生年金保険法 第81条・第82条 |
| 子ども・子育て拠出金 | 厚生年金の標準報酬月額・標準賞与額 | 全額 | 子ども・子育て支援法 第69条・第70条 |
| 雇用保険 | 賃金総額 | スタッフより多い(下の節) | 労働保険徴収法 第11条・第12条・第31条 |
| 労災保険 | 賃金総額 | 全額 | 労働保険徴収法 第11条・第12条・第31条 |
ここからは筆者の読み方です。上の3つ(健康保険・厚生年金・拠出金)は、毎月の給与そのものではなく、給与を区切りのよい等級に当てはめた「標準報酬月額」に掛かります。下の2つ(雇用保険・労災保険)は、支払った賃金の総額に掛かります。同じ月給でも、見積もりの計算の入り口が2つに分かれます。
健康保険と厚生年金は、半分ずつ
厚生年金保険法第81条第3項によると、保険料額は、標準報酬月額と標準賞与額のそれぞれに保険料率を掛けた額です。同じ条の第4項の表では、平成29年9月以後の月分の率は千分の百八十三・〇〇とされています。第82条第1項は、被保険者と、その人を使う事業主が、保険料の半額ずつを負担する、と定めています。
健康保険法第161条第1項も、被保険者と事業主が、それぞれ保険料額の2分の1を負担する、としています。ただし、健康保険の率は全国で1つではありません。第160条によると、協会けんぽ(全国健康保険協会)の一般保険料率は、支部の被保険者ごと、つまり都道府県ごとに決まります(都道府県単位保険料率)。幅は、千分の三十〜千分の百三十の間です。
加入先が健康保険組合の場合、第162条により、組合は規約で、事業主の負担の割合を増やすことができます。ここからは筆者の読み方です。歯科医院の中には、スタッフが歯科医師国民健康保険組合に入っているところもあります。その場合、健康保険の部分は協会けんぽの率も折半の決まりも当てはまらず、組合の決まりによります。どちらに入っているかで見積もりが変わるので、先に確かめます。加入の義務がどこからかは、当社が運営する事務長AIのブログの歯科医院の社会保険、加入義務は個人立の常時5人からにまとめています。
健康保険料には、子ども・子育て支援金の率が入っている
健康保険法第156条は、被保険者の保険料額を、標準報酬月額と標準賞与額に、一般保険料率と子ども・子育て支援金率とを合わせた率を掛けた額(一般保険料等額)としています。介護保険法第9条第2号の第2号被保険者(市町村の区域内に住所がある40歳以上65歳未満の医療保険加入者)には、介護保険料率を掛けた額が加わります。健康保険法第160条の2によると、子ども・子育て支援金率は、政令で定める率の範囲内で、保険者が定めることになっています。
ここからは筆者の読み方です。前の年度の数字をそのまま使って人件費を見積もると、この支援金率の分がずれます。保険者が出す、その年度の保険料額表で確かめるのが確かです。
子ども・子育て拠出金は、医院だけが払う
子ども・子育て支援法第69条は、政府が拠出金を徴収する相手として、厚生年金保険法 第82条第1項の事業主などを挙げています。第70条によると、拠出金の額は、厚生年金の保険料の計算の元になる標準報酬月額と標準賞与額に、拠出金率を掛けた額の総額です。拠出金率は千分の四・〇以内で政令が定めます。
率そのものについて、日本年金機構の保険料額表のページは、令和8年度の子ども・子育て拠出金率を、令和7年度と同じ1,000分の3.6(0.36%)と案内しています。率は年度ごとに示されるので、その年度の案内で確かめてください。スタッフの給与から差し引く項目には出てこないので、給与明細だけを見ていると気づかない費用です。
雇用保険と労災保険は、賃金の総額に掛かる
労働保険の保険料の徴収等に関する法律(以下、労働保険徴収法)第11条によると、一般保険料の額は、賃金総額に保険料率を掛けた額です。賃金総額とは、事業主がその事業で使うすべての労働者に払う賃金の総額をいう、とされています。第12条第1項は、労災保険と雇用保険の両方が成立している事業の率を、労災保険率と雇用保険率を足したものとしています。
スタッフが負担する分は、同じ法律の第31条に書かれています。第12条第1項第1号の事業のスタッフが負担するのは、一般保険料のうち雇用保険率に応じた部分から、二事業率を掛けた分を引いた額の2分の1です。ここからは筆者の読み方です。労災保険の部分は、スタッフの負担として書かれていないので、医院が全額を持ちます。雇用保険の二事業の部分も、医院だけの負担です。
令和8年度の雇用保険料率について、厚生労働省の案内は、一般の事業で次のとおりとしています。
| 負担する人 | 令和8年度(令和8年4月1日〜令和9年3月31日) |
|---|---|
| スタッフ(失業等給付・育児休業給付の分) | 5/1,000 |
| 事業主(失業等給付・育児休業給付の分 5/1,000 + 雇用保険二事業の分 3.5/1,000) | 8.5/1,000 |
| 合計 | 13.5/1,000 |
労災保険率は、労働保険徴収法 第12条第2項が定め方を置いています。医院に当てはまる率は、毎年の労働保険の申告の書類で確かめられます。
賞与にも、同じように乗る
健康保険・厚生年金・拠出金は、どれも標準賞与額にも掛かることが、それぞれの条文に書かれています。雇用保険と労災保険も、賃金総額に賞与が含まれれば、その分に掛かります。ここからは筆者の読み方です。賞与を増やして月給を抑える組み方でも、給与の上に乗るものは消えません。年間の人件費は、月給×12と賞与を足した額に、それぞれの率を当てて見ます。
1人雇う前に、見積もりで確かめること
- スタッフが入る健康保険がどこかを確かめる。協会けんぽ、健康保険組合、歯科医師国保のどれかで、率と割り方が変わります
- その年度の保険料額表を手元に置く。募集する月給が、どの標準報酬月額に当たるかを見ます
- 40歳以上65歳未満かを見る。介護保険料が加わるかどうかです
- 拠出金を忘れずに足す。給与明細には出てこない、医院だけの負担です
- 雇用保険と労災保険は、賃金の総額で見る。賞与も含めた年間の額で出します
- 年度が替わったら、率を差し替える。4月からの雇用保険料率など、年度で変わるものがあります
どれも院長の手元で並べられることです。そのうえで、個別の加入の判断や保険料の計算は専門家の領域です。当社は社会保険・労働保険の判断や手続きの代行をしません。顧問の社会保険労務士や税理士、年金事務所、労働局に確かめてください。
給与と、医院ごとの人件費を、月ごとの経営の数字と並べて見られるようにする道具として、当社は事務長AIを作っています。給与は経理の画面に、売上などの数字は経営の数字の画面にまとめてあります。
参考にした情報源
- デジタル庁 e-Gov法令検索 健康保険法(大正十一年法律第七十号) ── 第156条、第160条、第160条の2(子ども・子育て支援金率)、第161条、第162条
- デジタル庁 e-Gov法令検索 厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号) ── 第81条、第82条
- デジタル庁 e-Gov法令検索 子ども・子育て支援法(平成二十四年法律第六十五号) ── 第69条、第70条
- デジタル庁 e-Gov法令検索 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号) ── 第11条、第12条、第31条
- デジタル庁 e-Gov法令検索 介護保険法(平成九年法律第百二十三号) ── 第9条
- 日本年金機構 保険料額表(令和2年9月分〜) ── 令和8年度の子ども・子育て拠出金率
- 厚生労働省 令和8(2026)年度雇用保険料率のご案内
※ この記事は、上に挙げた資料を当社が確認した時点の記載だけをもとに書いています。料率は年度ごとに変わります。最終確認は、そのときの原文と保険料額表でお願いします。個別の事案の当てはめは、年金事務所・労働局または社会保険労務士にご確認ください。
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