就業規則の変更、スタッフの同意は要るのか

就業規則の変更、スタッフの同意は要るのか

就業規則を書き換えれば、スタッフの労働条件も一緒に変わるのか。労働基準法と労働契約法の条文を並べると、答えは「どちらの向きに変えるか」で分かれます。労働基準法が変更の手続きとして求めているのは、過半数を代表する側の意見を聴くことで、同意ではありません。一方で労働契約法 第9条は、スタッフと合意しないまま、就業規則の変更で労働条件を不利益に変えることを、原則として認めていません。この記事は、就業規則を変える前に経営の側で決めておくことを、条文から並べます。

目次

手続きとして求められるのは「意見」

この記事で読んだのは、労働基準法と労働契約法です。労働契約法 第11条は、就業規則の変更の手続きについては、労働基準法の第89条と第90条の定めによる、としています。

労働基準法 第90条は、就業規則を作るときも変えるときも、使用者に意見を聴く義務を課しています。聴く相手は、その事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、そういう組合が無いときは労働者の過半数の代表者です。届け出るときには、その意見を記した書面を添付することも求めています。第89条は、常時10人以上を使用する使用者に就業規則の作成と届出を求め、記載事項を変えたときも同じく届け出る、と定めています。

第90条が求めているのは、意見を聴くことと、その意見を記した書面を添えることです。同意を得ることまでは書かれていません。ただ、手続きが済むことと、変更後の中身がスタッフ1人ひとりの労働条件になることは、別の条文の話です。

中身として、下げる向きは合意が原則

労働契約法 第8条によると、労働者と使用者が合意すれば、労働条件は変えられます。変更の基本は合意です。

続く第9条が、就業規則を使った変更について定めています。第9条によると、労働者との合意が無いまま、就業規則の書き換えによって労働条件を労働者の不利益な向きに変えることは、使用者にはできません。そのうえで、次の第10条の場合は別だ、というただし書が付いています。

医院の場面に置き換えると、たとえば手当を減らす、休日を減らす、賞与の決め方を下げる向きに変える、といった書き換えです。就業規則の文面を変えて届け出ても、それだけで全員の条件が下がるわけではありません。

例外の第10条には、2つの条件がある

労働契約法 第10条は、就業規則の変更で労働条件を変える場合に、変更後の就業規則による、とされるための条件を2つ置いています。

  1. 変更後の就業規則を、労働者に周知させていること
  2. いくつかの事情に照らして、その変更が合理的であること

合理的かどうかを照らす事情として、条文が名前を挙げているのは次の4つです。最後に、そのほか変更にまつわる事情も加えています。

  • スタッフが受ける不利益が、どれだけ大きいか
  • 労働条件を変える必要が、どれだけあるか
  • 変えたあとの就業規則の内容が、相当かどうか
  • 労働組合などと、どう交渉してきたか

第10条にもただし書があります。就業規則を変えても動かさない条件として、労働契約で個別に合意していた部分については、変更後の就業規則によらない、とされています(第12条に当たる場合は除かれます)。雇用契約書にそうした個別の合意が書かれていないかは、変える前に確かめておく場所です。

合理的かどうかは、変える側が自分で決められることではありません。条文が挙げている事情を見ると、変える理由と、スタッフが受ける不利益の大きさを、変える前に言葉と数字で説明できるかが問われる形になっています。経営の側で先に用意できるのは、この説明の材料です。

上げる向きなら、全員の下限が上がる

反対に、就業規則を有利な向きに変える場合です。労働契約法 第12条によると、労働契約の中に、就業規則の基準に届かない労働条件があれば、その部分は無効です。無効になった部分は、就業規則の基準に置き換わります。

つまり、就業規則の手当や休日を引き上げると、それを下回る個別の契約は、その部分が就業規則の基準に引き上げられます。就業規則を上げる判断は、1人の条件ではなく、対象になる全員の人件費の判断です。採用のために手当を足すときも、既にいるスタッフに同じ基準が及ぶかどうかを、先に数えておきます。育休で抜ける人の仕事を代わりに担う人への手当も、就業規則に置いておく種類の決まりです。手当の決め方と助成金の組み方は、育休で抜ける人の穴、代わりの人と助成金をどう組むかにまとめています。

どちらの向きでも、周知が要る

労働基準法 第106条によると、使用者は就業規則をスタッフに周知させなければなりません。方法として条文が挙げているのは、作業場の見やすい場所にいつも掲示するか備え付ける、書面で渡す、そのほか厚生労働省令が定める方法です。

下げる向きの変更では、周知は第10条の条件そのものでもあります。院長室の棚に新しい版が1冊ある、という状態は、条文が挙げている方法とは別のものです。変えた日と、スタッフが新しい版を見られるようになった日を、記録に残しておきます。就業規則と一緒に見直しておきたいものに、ハラスメントの相談窓口をどう置くかがあります。

常時10人以上かどうかの数え方や、作成と届出の義務そのものは、当社が運営する事務長AIのブログの歯科医院の就業規則、10人未満なら要らないのかにまとめています。

変える前に、経営の側で決めること

  1. 変える項目ごとに、上げる向きか下げる向きかを分ける。同じ改定の中に両方が混ざることもあります
  2. 下げる向きの項目は、個別に合意を取るのか、第10条の合理性で進めるのかを決める。第10条で進めるなら、変える理由と不利益の大きさを説明する材料を先にそろえます
  3. 「就業規則が変わっても変えない」と個別に合意した条件がないかを、雇用契約書で確かめる。あれば、第10条のただし書に当たるかどうかを専門家に確かめます
  4. 上げる向きの項目は、対象の人数を掛けて人件費を出す。第12条で、下回る契約はその部分が就業規則の基準に引き上げられます
  5. 意見を聴く段取りと、周知の方法を決める。過半数代表者を誰にするか、いつ聴くか、書面をどう残すか。常時10人以上なら届出も要ります

ここまでは、条文に書いてあることを並べたものです。ある変更が合理的と言えるかどうかは、個別の事情で判断されます。当社は労務の判断をしません。変える前に、顧問の社会保険労務士に確かめてください。

スタッフごとの雇用契約の条件を一覧で持っておくと、変更で誰に何が及ぶかを数えやすくなります。当社は、雇用契約や勤怠を人事労務の画面にまとめた事務長AIを作っています。

参考にした情報源

上のリンク先は、デジタル庁が運営する e-Gov法令検索の条文ページです。この記事に書いたことは、そこに表示される条文と一つずつ突き合わせられます。条文は改正で変わります。最終確認は、そのときの原文でお願いします。

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この記事を書いた人

近藤 宏海のアバター 近藤 宏海 代表取締役

近藤 宏海(こんどう ひろみ)/株式会社ガラパゴスワークス 代表取締役。歯科医院の開業から日々の運営まで、事務の現場を担ってきました。自社で歯科医院向けのWebアプリ「事務長AI」と、歯科医師向けアプリ「シカノバ」を開発・運営しています。

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