医療法人化には歯科医師が何人も必要、というイメージを持っている方がいますが、それは昭和60年より前の制度の話です。いまは常勤の歯科医師1人の診療所でも医療法人になれます。この記事は、個人開業と医療法人で何が変わり、何が変わらないかを、医療法の条文と東京都の解説から整理します。税額の比較は税理士の領域なので、この記事には含みません。
医療法人とは、法律上どういうものか
この記事で読んだのは、医療法と、東京都保健医療局「医療法人制度の概要」です。医療法 第39条は、歯科医師が常時勤務する診療所などを開設しようとする社団や財団は、法人とすることができ、その法人を医療法人と称すると定めています。第44条は、医療法人は主たる事務所の所在地の都道府県知事の認可を受けなければ設立できないとしています。個人開業がその日から始められるのに対し、法人化には知事の認可という手続きが挟まります。
「医師が何人も必要」は、昭和60年より前の話
東京都保健医療局の解説によると、昭和60年の医療法改正より前は、病院または常勤の医師・歯科医師が3人以上勤務する診療所でなければ医療法人を設立できませんでした。改正後は、常時1人または2人勤務する診療所でも医療法人にできるようになり、この形は一人医師医療法人と呼ばれています。現在、開業医が1人で医療法人を作れるのは、この改正によるものです。法人化には複数の歯科医師が要るという理解は、この改正より前の制度にもとづいています。
法人にすると変わること ── 利益の扱い方
医療法 第54条は、医療法人は剰余金の配当をしてはならないと定めています。株式会社であれば、利益を株主に配当できますが、医療法人はこれができません。東京都の解説も、この点で医療法人が会社法上の株式会社などと区別されると説明しています。個人開業では、事業で得た利益は開業医個人のものとして扱われますが、医療法人になると、利益は法人の中に残り、配当という形で個人へ直接渡すことはできなくなります。この配当禁止は税率の話ではなく、利益の帰属先そのものが変わる制度上の違いです。
法人にしても変わらないこと ── 管理者は原則1人1施設
複数の医院を持ちたいという動機で法人化を考える院長もいますが、ここで確認しておきたいのが医療法 第12条です。同条 第2項は、診療所を管理する歯科医師は、都道府県知事の許可を受けた場合を除き、他の診療所を管理してはならないと定めています。この制限は、開設者が個人か法人かにかかわらず及びます。法人になれば自動的に分院を自由に増やせるわけではなく、分院ごとに管理者となる歯科医師を確保するか、知事の許可を受ける必要がある点は、個人開業のときと変わりません。分院の管理者に置く人に、何をどこまで任せるかは、分院長に任せる範囲、どこまで決めておくかの記事に続きを書いています。
分かれ目として確認できること
ここまでの条文から整理できるのは、法人化によって変わるのは、開設者が個人から法人になること、設立に知事の認可が要ること、利益が配当という形で個人へ直接渡らなくなることです。一方、分院ごとに管理者を置く必要があるという制限は、法人化しても変わりません。「歯科医師が1人しかいないから法人化できない」という理由は、いまの制度には当てはまりません。税額や社会保険料など、数字にもとづく損得の判断は、この記事では扱っていません。そこは顧問の税理士に確認することをおすすめします。法人にするかどうかとは別に、継ぐ人がいないと決まったあとの手続きは、子どもが継がない歯科医院、どうたたむかにまとめています。
参考にした情報源
- デジタル庁 e-Gov法令検索 医療法(昭和二十三年法律第二百五号) ── 第12条・第39条・第44条・第54条
- 東京都保健医療局 「医療法人制度の概要」(第1章・PDF)
上のリンク先は、デジタル庁が運営する e-Gov法令検索と、東京都保健医療局の公式サイトです。この記事に書いたことは、そこに表示される条文・文書と一つずつ突き合わせられます。制度は改正で変わります。最終確認は、そのときの原文でお願いします。
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