歯科医院の物件は、内装と設備にまとまった金額を入れてから使い始めます。だからこそ、契約書の中でいちばん先に見るのは賃料ではありません。借地借家法 第38条第1項にある、更新がないこととする旨の定めが入っているかどうかです。入っていれば、期間が終われば契約は終わります。投資を何年で回収する計画なのかと、直接ぶつかります。
① 更新のない契約かどうかを、最初に見る
この記事で読んだのは、借地借家法と医療法です。借地借家法 第38条第1項は、期間の定めがある建物賃貸借について、公正証書によるなど書面で契約をするときに限り、更新をしないこととする旨を、その契約の中に定められるとしています。同条第3項は、その契約をしようとするとき、賃貸人があらかじめ賃借人に対し、更新がなく期間の満了で終了することを記載した書面を交付して説明しなければならない、としています。
ですから、説明の書面を受け取ったかどうかが、そのまま見分けの手がかりになります。受け取った覚えがないのに契約書に更新しない旨が書いてある、という状態なら、そこは先に確かめる場所です。
② 通知の期間が、条文で決まっている
更新のある契約の場合です。借地借家法 第26条第1項が置いている窓は、期間が終わる1年前から6月前までのあいだです。この窓のうちに、更新しない旨や、条件を変えなければ更新しない旨の通知を相手方へ出さなかったときは、前と同じ条件で更新したものとみなされます。ただし、そのときの期間は定めがないものとする、と条文は続けています。
この1年前から6月前までという窓は、医院の側にとっても予定の話になります。移転や増床を考えているなら、この窓が来る前に決めておく必要があります。契約書の日付から逆算して、カレンダーに入れておく種類のものです。
③ 貸す側からの更新拒絶には、条件が付いている
借地借家法 第28条は、賃貸人による第26条第1項の通知や解約の申入れについて、借地借家法 第28条は、正当の事由があると認められるときでなければ することができない、と定めています。条文は、その正当の事由を判断するときに考えるものとして、貸す側と借りる側それぞれが建物の使用を必要とする事情のほか、これまでの経過、建物の利用状況と現況、そして明渡しの条件などとして財産上の給付を申し出た場合のその申出、を挙げています。
第27条第1項は、賃貸人が解約の申入れをした場合に、建物の賃貸借は申入れの日から6月を経過することによって終了する、としています。言われてすぐ出ていく形ではありません。ただし、これらは更新のある契約の話です。①の定期の契約では、前提が変わります。
④ 賃借人に不利な特約は、無効になりうる
借地借家法 第30条は、この節の規定に反する特約のうち、借りる側に不利なものを無効とする、としています。契約書に書いてあることが、そのまま全部 効くとは限らない、ということです。第29条第1項は、期間を1年未満とする建物賃貸借を、期間の定めがない建物賃貸借とみなすとしています。
第31条は、建物の賃貸借について、登記がなくても引渡しさえ受けていれば、そのあとにその建物の権利を取得した相手にも効力が及ぶ、という形を定めています。貸主が途中で変わる場面で効いてくる条文です。ただし、どの特約が無効になるかの判断は個別の話になるので、契約前に弁護士にご確認ください。
⑤ 賃料は、あとから動きうる
借地借家法 第32条第1項は、建物の借賃が、租税その他の負担の増減、建物や土地の価格の変動その他の経済事情の変動により、または近くの同種の建物の借賃と比べて不相当となったときに、契約の条件にかかわらず、当事者が将来に向かって借賃の額の増減を請求することができる、としています。ただし書は、一定の期間は借賃を増額しないという特約が置かれているときは、その定めのほうに従う、としています。
同条第2項は、増額について協議が調わないときに、請求を受けた側が、増額を正当とする裁判が確定するまでは相当と認める額を支払えば足りる、としています。ただし裁判が確定して不足があったときは、その不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付けて支払う、とも書かれています。据え置きの取り決めがあるかどうかは、契約書の中で探しておく項目です。
契約と同じ時期に、届出の期限も来る
医療法 第8条第1項は、臨床研修等修了歯科医師などが診療所を開設したときに、開設後10日以内に、その所在地の都道府県知事へ届け出なければならない、としています。物件の引渡し・工事・開設の日程は、この10日という期限と並べて組むことになります。
契約前に見ておく5つを、もう一度 並べます。更新のない契約かどうか。通知の窓がいつ来るか。貸す側からの申入れに何が必要か。賃借人に不利な特約が入っていないか。賃料の増減についてどう決めてあるか。賃料の金額そのものは、この5つを確かめたあとで比べるほうが、比べる意味が出ます。個別の契約書の判断は、弁護士や不動産の専門家にご確認ください。この記事は、条文に書いてあることを並べたものです。
なお、契約書の条項そのものをどう判断するかは、弁護士・不動産の専門家の領域です。この記事は、契約の前に見ておく点を並べたところまでで、個別の契約の判断に代わるものではありません。
参考にした情報源
- デジタル庁 e-Gov法令検索 借地借家法(平成三年法律第九十号) ── 第26条/第27条/第28条/第29条/第30条/第31条/第32条/第38条
- デジタル庁 e-Gov法令検索 医療法(昭和二十三年法律第二百五号) ── 第8条
上のリンク先は、デジタル庁が運営する e-Gov法令検索の条文ページです。この記事に書いたことは、そこに表示される条文と一つずつ突き合わせられます。条文は改正で変わります。最終確認は、そのときの原文でお願いします。
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