タブレット問診を入れるとき、院長が決めることになるのは「紙をやめるかどうか」ではありません。問診票は記録として残るものなので、電子にした時点で、確保しておかなければならない条件が付いてきます。この記事は、その条件を厚生労働省のガイドラインと条文から並べ、紙をどこに残すかを考える材料にします。
問診票は、保存の対象に入ってきます
保険医療機関の記録の保存については、保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則)の第9条が期間を決めています。療養の給付の担当に関する帳簿および書類その他の記録は、完結の日から3年間。ただし患者の診療録については、完結の日から5年間です。
問診票がこのどちらに入るかは、その医院で問診票をどう扱っているかによって変わります。診療録の一部として綴じているのか、それとは別の記録として持っているのか。ここを決めていないと、保存期間そのものが決まりません。紙のうちはバインダーの置き場所で自然に分かれていたものが、電子にすると同じデータベースに並びます。分け方を先に決めておく順番になります。
なお診療録そのものの保存については、歯科医師法 第23条 第2項が、診療所に勤務する歯科医師がした診療に関するものは、その診療所の管理者が5年間保存しなければならないと定めています。保存の義務を負っている人が誰かも、あわせて確かめておく点です。
電子で保存するなら、3つが要ります
厚生労働省が公開している医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版(概説編)に、短いですが決定的な一文があります。電磁的記録による保存ができる文書などに記録された情報を電子媒体に保存する場合には、その情報の真正性、見読性、保存性が確保されている必要がある、という一文です。
この3つは、タブレット問診を検討するときの質問リストにそのまま置き換えられます。以下は条文やガイドラインの文言ではなく、3つの言葉を医院の現場に当てはめたときに出てくる問いとして、当社が整理したものです。
- 真正性 ── 誰が入力したものかが残るか。患者本人が打ったのか、受付が聞き取って代わりに打ったのかが、あとから分かる形になっているか。入力後に内容を直したとき、直した事実が残るか
- 見読性 ── 必要になったときに読める形で出せるか。監査や照会で求められたとき、その場で画面に出せるか、印刷できるか
- 保存性 ── 保存期間のあいだ、読み出せる状態が続くか。タブレットを買い替えたあと、アプリの提供が終わったあと、ベンダーを替えたあとに、前のデータをどう読むか
導入の相談でベンダーに聞くとき、機能の一覧より先にこの3つを出すと、話が早く進みます。3つとも、契約したあとでは変えられない部分に関わります。
ガイドラインが向いている先
同じ概説編は、このガイドラインの直接の目的が、個人情報保護法とe-文書法への対応にあることも書いています。加えて、医療従事者が作成する文書については、関係する法令のほうが内容を示しているとしたうえで、それぞれの法令が求めるとおりに作成することが義務づけられている、と書かれています。ガイドラインは条文の代わりではなく、条文に従って作った文書を電子で持つときの条件を足すものだという位置づけです。
ガイドラインは、医療情報システムに対する院内の統制にも触れています。組織としての安全管理に関する基本的な方針や計画を決めること、必要な組織と体制を整えること、院内のルールとなる規程類を整えること。道具を入れる話と、院内の決めごとを作る話は、同じ日に始まります。
では、紙はどこに残すか
ここからは条文の外側、医院が決める部分です。3つの条件から逆算すると、紙を完全に無くす前に決めておく項目が見えてきます。
- 止まった日の受付 ── 通信や電源が止まった日に、問診をどう取るか。紙の様式を印刷して置いておくのか、その日は口頭で聞いて後から入れるのか
- 後から入れた記録の扱い ── 紙で取ったものを後で入力したとき、誰がいつ入れたのかを残せるか。真正性に関わる部分です
- 署名が要る書類 ── 同意書など、署名を求める書類は問診票と分けて考える。ガイドラインは、電子署名を施す場合について別に触れています
- 読み書きが難しい患者への対応 ── タブレットの操作が難しい方に、紙をそのまま渡せる状態にしておくか
- 引き上げるときの手順 ── 契約を終えるとき、それまでのデータをどの形で受け取るか。保存性は、契約が終わったあとにも効きます
紙とタブレットの使い分けは、どちらが優れているかの話ではありません。保存期間のあいだ読み出せる形をどう作るかが決まれば、紙をどこに残すかは自然に決まります。
まとめ ── 道具の比較より先に、記録の条件を決める
療担規則は、記録の保存期間を3年、診療録については5年と定めています。問診票をどちらとして扱うかは、医院が決める部分です。そのうえで電子に置くなら、厚生労働省のガイドラインが求める真正性、見読性、保存性の3つを確保する必要があります。導入の検討は、画面の使いやすさを見る前に、この順番で並べると進みます。
参考にした情報源
- デジタル庁 e-Gov法令検索 保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和三十二年厚生省令第十五号) ── 第8条、第9条
- デジタル庁 e-Gov法令検索 歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号) ── 第23条
- 厚生労働省 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版(概説編)
ガイドラインは概説編のほかに、経営管理編、企画管理編、システム運用編などに分かれています。この記事で引いたのは概説編です。実際の要求事項は各編に書かれているので、導入を決める段階では、そちらもあわせてご確認ください。条文もガイドラインも改正されます。
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