自由診療の値上げ、患者にどう伝えるか

自由診療の値上げ、患者にどう伝えるか

自由診療の価格は、保険診療と違って医院が自分で決められます。値上げそのものに、役所への届出は要りません。ただし「どう伝えるか」には、医療法の条文が関わってきます。特にホームページに費用を載せている医院は、値上げのたびに直さないと、条文が求める状態から外れてしまいます。この記事は、値上げを伝える前に確認しておきたい点を、医療法と同法施行規則の原文から並べます。

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値段は自由でも、広告には条文がある

この記事で読んだのは、医療法と、その委任を受けた医療法施行規則の条文です。医療法 第6条の5 第1項は、医業・歯科医業や病院・診療所について、患者を誘引するための表示(広告)をするときは、内容が事実と異なってはいけないという趣旨を定めています。自由診療の価格をいくらにするかは医院の判断ですが、その価格を外向けに表示する行為(広告)には、この条文が及びます。

ホームページの費用表示は「出しっぱなし」にできない

医療法 第6条の5 第3項は、広告できる事項を原則として限定した上で、厚生労働省令で定める場合はその限定を外せる、という仕組みを置いています。この「厚生労働省令で定める場合」を具体的に決めているのが、医療法施行規則 第1条の9の2です。同条は4つの要件を挙げていますが、そのうち三つ目・四つ目の要件は、自由診療について情報を提供する場合に限って適用されます。

三つ目の要件は、自由診療でふつう必要になる治療の内容や費用について、情報を提供することを求めています。四つ目の要件は、その治療に伴う主なリスクや副作用について、情報を提供することを求めています。つまりホームページで自由診療の内容を説明してよい代わりに、費用とリスクの両方を載せることが条件になっています。

ここから読み取れるのは、費用表示を一度作って終わりにはできないということです。値上げをしてもサイトの数字を直さなければ、窓口で伝えられる価格とサイトに書かれた価格が食い違います。条文が求めているのは、いまの費用についての情報であって、過去の価格をそのまま載せ続けることではありません。値上げの反映は、サイト運用の後回しにしてよい作業ではなく、この要件と直結する作業です。

値上げの理由を「比較」で語らない

値上げを患者に説明するとき、理由を添えたくなる場面があります。ここで医療法 第6条の5 第2項が効いてきます。同項は広告の基準として、一つ目に他院より優れているという比較の広告をしないこと、二つ目に誇大な広告をしないことを挙げています。「他院より高い技術だから値上げした」「地域で一番の設備を入れたので」といった比較優良の言い回しは、値上げの説明であっても、この基準に触れる可能性があります。

院内掲示やホームページで値上げの理由を書くなら、比較や優劣ではなく、変更する事実(いつから・どの診療が対象か・従来の価格との差)に絞るほうが、条文との距離が近くなります。

伝えるルートを1つに絞らない

医療法施行規則 第1条の9の2 の一つ目の要件は、対象となるウェブサイトについて、患者が自分から探して見に行く情報である、という位置づけを置いています。つまり、患者が自分から見に行かない限り、ホームページに書いてあるだけでは「伝えた」ことにはなりません。値上げを知らせるルートは、ホームページだけでなく、院内掲示・受付での声かけ・治療計画書や見積書への明記など、複数を重ねておくほうが、条文が前提にしている情報提供の実態に近づきます。

同条の二つ目の要件は、表示している情報について、患者が容易に問い合わせられるよう、連絡先などを明示することも求めています。価格表を載せるだけでなく、疑問があれば確認できる連絡先をあわせて示すことも、条文が求める形の一部です。

すでに契約している患者の扱いは、先に決めておく

複数回の通院を前提にした自由診療(矯正やインプラントの治療計画など)では、契約時点の価格と、通院途中で改定された価格のどちらを適用するかが、あとで論点になります。この記事で読んだ条文には、既契約への遡及を禁じる規定はありません。だからこそ、値上げの発効日と、発効日より前に治療計画に合意した患者をどう扱うかを、値上げを外部に知らせる前に院内で決めておく必要があります。決め方を先送りにすると、価格の説明そのものが後手に回ります。

まとめ ── 値上げの実務は「価格を決める」で終わらない

自由診療の価格を決める権限は医院にあります。しかし値上げを外向けに伝える段になると、医療法 第6条の5 とその施行規則 第1条の9の2 が、費用とリスクの情報提供・比較優良や誇大にあたらない表現・問い合わせ先の明示という形で関わってきます。値上げの実務は、新しい価格を決めた時点では終わりません。サイトの費用表示を直すところまでが、この条文が求めている状態です。

参考にした情報源

上のリンク先は、デジタル庁が運営する e-Gov法令検索の条文ページです。この記事に書いたことは、そこに表示される条文と一つずつ突き合わせられます。条文は改正で変わります。最終確認は、そのときの原文でお願いします。

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この記事を書いた人

近藤 宏海のアバター 近藤 宏海 代表取締役

近藤 宏海(こんどう ひろみ)/株式会社ガラパゴスワークス 代表取締役。歯科医院の開業から日々の運営まで、事務の現場を担ってきました。自社で歯科医院向けのWebアプリ「事務長AI」と、歯科医師向けアプリ「シカノバ」を開発・運営しています。

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