有給の計画的付与、夏季休診にあてる前に決めること

有給の計画的付与、夏季休診にあてる前に決めること

夏に数日、医院を閉める。その休みを、スタッフの有給休暇から引いてよいのか。有給は、本人が請求した時季に与えるのが原則です。休診日を全員そろって有給にあてる仕組みとして、労働基準法が置いているのは第39条第6項の「計画的付与」で、労使協定で時季を定めておくことが前提です。しかも使えるのは、1人ひとりの日数のうち5日を超える部分だけです。この記事は、付与日数の数え方ではなく、有給を医院の年間の予定に組み込むときに、経営の側で先に決めておくことを並べます。

目次

医院の側から日を決める形は、条文に2つある

労働基準法の第39条は、第5項で、有給休暇は労働者が請求する時季に与えなければならない、と定めています。そのうえで、医院の側から時季を決める形を2つ置いています。

  • 計画的付与(第6項) 過半数で組織する労働組合、それが無ければ過半数を代表する者と、書面で協定を結ぶ。協定で時季を定めた場合に、5日を超える部分をその定めのとおりに与えられる
  • 年5日の時季指定(第7項) 年10日以上が付与される人について、基準日から1年以内に5日、医院が時季を定めて与える義務。施行規則 第24条の6により、指定の前に本人の意見を聴くことは義務です。聴いた意見を尊重することは、努力義務とされています

2つはつながっています。第39条第8項により、計画的付与で与えた日数は、年5日の時季指定の5日から差し引けます(差し引けるのは5日まで)。厚生労働省の解説資料も、計画年休で取った日は年5日の取得義務の5日に数えられる、と説明しています。夏季休診を計画的付与にしておけば、年5日の管理の一部が、休診の予定と一緒に片づきます。

使えるのは、5日を超える部分だけ

解説資料は、計画的付与の対象にできるのは付与日数から5日を除いた残りだ、と説明しています。少なくとも5日は、本人が自由に取れる日として残さなければなりません。ここで、週の所定労働日数が少ないスタッフの日数が効いてきます。厚生労働省のリーフレットの付与日数の表から、いくつか拾って引き算すると、こうなります。

働き方継続勤務年数(年)付与日数(日)計画的付与に回せる日数(日)
常勤0.5105
常勤1.5116
週4日0.572
週3日0.550
週3日3.583
週2日0.530
付与日数は、厚生労働省 リーフレットシリーズ労基法39条 の表から拾いました(週4日以下は、週の所定労働時間が30時間未満の人の比例付与)。いちばん右の列は、当社がそこから5を引いたものです(引いてマイナスになる行は0と書いています)。

週3日で入って半年の衛生士さんは、付与が5日なので、計画的付与に回せる日はありません。入ってから6か月たっていない人は、第39条第1項の要件をまだ満たしていないので、法律上の有給はまだ発生していません。夏季休診を3日にすると決めても、全員の有給から3日を引けるわけではありません。ここを先に数えておかないと、休診の日取りだけが決まって、足りない人の扱いが宙に浮きます。

日数が足りない人を、どう扱うか

医院全体を閉める一斉付与の場合について、解説資料は、新しく採用した人など5日を超える有給が無い人にも、次のどちらかの措置を取るよう示しています。

  • 一斉に休む日を、有給の特別休暇にする
  • 休業手当として、平均賃金の60%以上を払う(一斉に休む日のぶん)

休業手当そのものは、同じ労働基準法の第26条に定めがあります。使用者の責に帰すべき事由による休業では、平均賃金の100分の60以上の手当を支払うこととされています。どちらを取るかで、夏季休診のコストが変わります。有給の特別休暇にすれば、その日の賃金を払うことになります。休業手当なら平均賃金の60%以上です。人数と日数を掛ければ、年間の人件費の見込みに入れられる金額になります。

休みの割り振り方は、3つから選ぶ

解説資料は、計画的付与のやり方として3つの方式を挙げています。どれを選ぶかは、事業場の実態に応じて、とされています。

  1. 一斉付与方式 全員を同じ日に休ませる。夏季休診や年末年始の休診に、そのまま重なる形です
  2. 班・グループ別の交替制付与方式 班ごとに交替で休ませる。資料は、定休日を増やすのが難しい事業場での使い方として挙げています。医院を閉めずに、診療を続けながら休みを回す形です
  3. 計画表による個人別付与方式 1人ずつ、計画表で取る日を決める。資料には、誕生日や記念日を充てる例もあります

医院を閉めるか、開けたまま回すか。これは有給の話であると同時に、その週の売上と予約の話です。閉めれば一斉付与、開けるなら交替制か個人別。休診の予定を決める会議で、一緒に決めてしまうのが早いところです。

就業規則と労使協定で、決めておく5つ

解説資料によれば、計画年休を入れるには、まず就業規則に、労使協定を結んだときはその協定で定める時季に計画的に取得させる、という趣旨の定めを置きます。そのうえで、過半数で組織する労働組合、または過半数を代表する者と、書面で協定を結びます。協定で定める項目として、資料が挙げているのは次の5つです。

  1. 対象者 その時季に育児休業や産前産後の休業に入ると分かっている人、あらかじめ退職が分かっている人は、対象から外しておく
  2. 対象になる日数 5日を超える部分
  3. 具体的な方法 一斉付与なら付与日、交替制なら班ごとの付与日、個人別なら計画表を作る時期と手続き
  4. 日数が少ない人の扱い 上に書いた、特別休暇か休業手当か
  5. 付与日を変えるときの手続き 変えることが予想されるなら、その手順

資料は、この協定は所轄の労働基準監督署に届け出る必要はない、としています。ただし、労働基準法の第106条は、スタッフに周知させなければならないものの中に、第39条第6項の協定を挙げています。届け出なくてよいことと、知らせなくてよいことは別です。掲示するか、備え付けるか、書面で渡すか。置き場所も一緒に決めておきます。知らせるところまでが求められるのは、ハラスメントの相談窓口の置き方でも同じです。

一緒に決めておくと、あとで迷わないこと

第39条には、ほかにも協定や就業規則で医院が決める項目があります。計画的付与を決める場で、並べて見ておくと手戻りが減ります。

  • 時間単位の有給(第4項) 労使協定を結べば、時間を単位として与えられる。対象の日数は5日以内に限られます
  • 有給の日に払う賃金(第9項) 平均賃金か、所定労働時間を働いた場合に払われる通常の賃金かを、就業規則などで定める。労使協定を結べば、健康保険法の標準報酬月額の30分の1とすることもできます。協定でそう定めたときは、その定めによらなければなりません

付与日数の数え方や、年5日の義務、年次有給休暇管理簿の基本は、当社が運営する事務長AIのブログの歯科医院の有給管理、法定どおりにできていますかにまとめています。

次の夏季休診の前に、院内で確かめること

  1. 休診の日数と、閉めるか回すかを決める。閉めるなら一斉付与、開けたまま回すなら交替制か個人別です
  2. スタッフごとの付与日数から5を引いて、回せる日数を出す。休診の日数に届かない人、入って6か月たっていない人を名前で書き出します
  3. 届かない人を、特別休暇にするか休業手当にするかを決める。人数×日数で、金額の見込みを出しておきます
  4. 就業規則に計画的付与の定めがあるかを見る。無ければ、定めを置くところから始まります
  5. 過半数代表者と、書面の協定を結ぶ段取りを入れる。協定の5つの項目を埋め、周知の置き場所を決めます

どれも、院長の手元で並べられることです。そのうえで、協定の文面や個別の当てはめは専門家の領域です。当社は労務の判断をしません。書き出したものを持って、顧問の社会保険労務士や、最寄りの労働基準監督署に確かめてください。

スタッフごとの付与日数と残りの日数を、毎回 数え直さずに見られるようにする道具として、当社は事務長AIを作っています。有給とシフトは、人事労務の画面にまとめてあります。

参考にした情報源

※ この記事は、上に挙げた資料を当社が確認した時点の記載だけをもとに書いています。法令も資料も改正されます。最終確認は、そのときの原文でお願いします。個別の事案の当てはめは、労働基準監督署または社会保険労務士にご確認ください。

院長の事務を、ひとつの画面に

発注・経理・勤怠・日報・レセプトの返戻・分院の数字を、ひとつの画面にまとめた歯科医院向けWebアプリ「事務長AI」を、当社で開発・運営しています。歯科経営全体のご相談は、歯科経営支援のページにまとめています。

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この記事を書いた人

近藤 宏海のアバター 近藤 宏海 代表取締役

近藤 宏海(こんどう ひろみ)/株式会社ガラパゴスワークス 代表取締役。歯科医院の開業から日々の運営まで、事務の現場を担ってきました。自社で歯科医院向けのWebアプリ「事務長AI」と、歯科医師向けアプリ「シカノバ」を開発・運営しています。

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