子どもが継がない歯科医院、どうたたむか

子どもが継がない歯科医院、どうたたむか

継ぐ人がいないと決まってから、たたむまでにやることは、廃止の届出だけではありません。閉めたあとにも続く義務があり、閉める前から始めておく手続きもあります。方向が逆の手続きが混ざっているので、順番を先に並べておくと動きやすくなります。この記事は、条文から その順番を組み立てます。

目次

医療法の届出は、閉めたあとに動きます

医療法 第9条 第1項は、診療所を廃止したときの届出について定めています。期限は10日以内、届け出る先は都道府県知事です。閉めた日から数え始める期限であって、閉める前に出すものではありません。

すぐ手前の第8条の2 第2項には、休止したときの届出も置かれています。こちらも10日以内で、休止していた診療所を再開したときも同じように届け出ることになっています。たたむ判断の前に、いったん休止するという選択肢が条文の側にあるということです。決めきれない段階で廃止を選ぶ前に、この違いは見ておく価値があります。

もうひとつ、第9条 第2項が置いている定めがあります。開設者が死亡したとき、または失踪の宣告を受けたときは、戸籍法の規定による死亡または失踪の届出義務者が、10日以内にその旨を所在地の都道府県知事へ届け出なければなりません。準備が整っていなくても、期限のほうは来ます。院長の家族が、この届出の義務を負う立場になりうるということです。

保険医療機関の指定は、閉める前から動きます

方向が逆になるのがこちらです。健康保険法 第79条 第1項が扱っているのは、指定の辞退です。辞退そのものは保険医療機関や保険薬局の側から申し出ることができますが、条件が付いています。一月以上の予告期間を設けること。同条 第2項は、保険医の登録の抹消についても同じ形を置いており、こちらも一月以上の予告期間が要ります。

つまり、医療法の届出は閉めたあと、健康保険法の辞退は閉める前です。閉院の日を決めたら、そこから逆に数えて動き出す手続きが、先にあります。この順番を取り違えると、閉院の日が動くことになります。

記録は、閉めても消えません

保険医療機関及び保険医療養担当規則 第9条は、保存の期間を決めています。療養の給付の担当に関する帳簿や書類、そのほかの記録は、完結の日から3年間。ただし患者の診療録については、完結の日から5年間です。

この期間は、医院を閉めたからといって短くなりません。閉院したあとも、保存の期間はそのまま続きます。置き場所をどうするか、患者から問い合わせが来たときに誰が対応するか、期間が終わったときに誰がどう処分するか。閉める段取りの中に、この3つを入れておくことになります。倉庫を借りるなら、その費用も閉院の費用に含まれます。

スタッフには、期限のある手続きがあります

労働基準法 第20条 第1項は、労働者を解雇しようとする場合について、少なくとも30日前に予告することを使用者に義務づけています。30日前に予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。同項の予告の日数は、第2項により、1日について平均賃金を支払った場合は、その日数を短縮できるとされています。

第1項には但し書きが付いています。除かれているのは、天災事変、あるいはやむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合と、労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合です。自院の閉院がこの但し書きに当たるかどうかは、思い込みで決めず、労働基準監督署か社会保険労務士に当ててから判断する点です。

辞めていく側からの請求に応じる条文も、同じ法律にあります。第22条 第1項は、退職するときの証明書の話です。請求があれば、使用者は遅滞なく交付しなければなりません。証明できる事項として条文が挙げているのは、その人を使っていた期間、業務の種類、事業における地位、賃金、そして退職の事由です。解雇の場合は、退職の事由にその理由も含まれます。そして第23条 第1項です。労働者が亡くなったとき、または退職したときに、権利者から請求があった場合、使用者は7日以内に賃金を支払い、あわせて金品を返さなければなりません。返す対象として条文が並べているのは、積立金、保証金、貯蓄金、そして名称のいかんを問わず労働者の権利に属する金品です。

閉院の日を過ぎてから請求が来ることもあります。口座も事務所も畳んだあとで7日以内に支払う、という状況を作らない段取りが要ります。

並べ直すと、こうなります

以下は、上に並べた条文から逆算して当社が整理した順番です。条文がこの順序を定めているわけではありませんし、これですべてでもありません。実際には、賃貸借契約、リース、借入金、税務の届出など、条文の外側の手続きが並行します。

  • 閉院の日を仮に決める ── ここから、前に数えるものと後ろに数えるものが分かれます
  • 廃止にするか、休止にするかを決める ── どちらも届出の期限は10日以内ですが、その後に残るものが違います
  • 保険医療機関の指定の辞退を、予告期間から逆算して動く ── 一月以上の予告期間です
  • スタッフに伝える日を決める ── 解雇の予告は少なくとも30日前です
  • 記録の置き場所を決める ── 3年と5年。閉院後も続きます
  • 患者への案内を出す ── 診療録の問い合わせ先を含めて書く
  • 閉院後の連絡先を用意する ── 証明書の請求や金品の返還は、閉めたあとに来ることがあります
  • 廃止の届出を出す ── 閉めた日から10日以内

まとめ ── 前に数えるものと、後ろに数えるもの

医療法の廃止の届出は、閉めた日から10日以内。保険医療機関の指定の辞退は、一月以上の予告期間。解雇の予告は、少なくとも30日前。記録の保存は3年と5年で、閉めても続きます。閉院の日を決めるという作業は、前に数える手続きと、後ろに数える手続きを、同じ紙の上に並べる作業です。継ぐ人がいないと分かった時点で、この紙だけは作っておけます。

参考にした情報源

この記事で並べたのは、条文に期限が書かれている手続きだけです。医療法人の解散、税務の届出、賃貸借やリースの解約、借入金の扱いは、それぞれ別の手続きになります。条文は改正で変わります。実際に動く前に、所管の保健所、地方厚生局、労働基準監督署、そして顧問の専門家にご確認ください。

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この記事を書いた人

近藤 宏海のアバター 近藤 宏海 代表取締役

近藤 宏海(こんどう ひろみ)/株式会社ガラパゴスワークス 代表取締役。歯科医院の開業から日々の運営まで、事務の現場を担ってきました。自社で歯科医院向けのWebアプリ「事務長AI」と、歯科医師向けアプリ「シカノバ」を開発・運営しています。

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