医院の紹介動画に患者さんに出てもらう。撮る前に決めておくのは、出てよいかどうかだけではありません。どこで使うか、いつまで使うか、撮ったものを誰が預かるか。この3つが決まっていないと、同意を取った意味が薄くなります。同意の取り方そのものについても、国のガイダンスが事例を挙げています。
映像も音声も、個人情報の側に入ります
読んだのは、個人情報保護委員会と厚生労働省が出している医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンスと、個人情報の保護に関する法律です。
ガイダンスは「個人に関する情報」を広くとっています。名前や住所のような、その人を見分けるための情報に限らない。身体や財産、職種、肩書といった属性について、事実でも、判断でも、評価でも、表している情報はすべて入る、という説明です。そのうえで並べられているものの中に、映像による情報と音声による情報が入っている、と個人情報保護委員会と厚生労働省のガイダンスは書いています。
つまり、動画に患者さんが映った時点で、それは個人情報を取り扱っている場面です。声だけの出演でも同じです。
院内掲示で足りる同意と、足りない同意
医院には、同意を一つずつ取らなくてよい部分があります。ガイダンスが示しているのは、こういう方法です。適切な医療サービスを提供するうえで通常 必要になる利用の範囲を、あらかじめ院内掲示で示しておく。患者の側からはっきりした反対や留保の申し出が無ければ、その範囲での利用については同意があるものと考えられる、という整理です。
ここで見落としたくないのが、前提の置かれ方です。個人情報保護委員会と厚生労働省のガイダンスがこの考え方を置いているのは、患者への医療の提供に必要な範囲についてです。医院の紹介動画は、患者本人への医療の提供のために撮るものではありません。院内掲示に利用目的を並べておけば動画にも使える、という関係にはならない、と読むのが自然です。撮影については、その場面ごとに同意を取る形になります。
同意の取り方は、事例が挙げられています
ガイダンスには、本人の同意を得ている事例が並んでいます。口頭で意思を示してもらう。書面を受け取る(電磁的な記録でもかまいません)。同意する旨のメールを受け取る。確認欄にチェックを入れてもらう。ホームページ上のボタンを押してもらう。音声で入力してもらうか、タッチパネルやボタンで入力してもらう。形式はひとつに限られていません。
そのうえで、方法の選び方に条件が置かれています。事業の性質と、個人情報をどう扱っているかに応じて、本人がその判断を下すために必要と考えられる、合理的で適切な方法をとらなければならない、という条件です。「サインをもらった」という事実より、本人が何に同意したかを判断できる材料が渡っていたかが問われる形になっています。
もうひとつ、小児を診る医院に関わる記述があります。同意したことでどんな結果が生じるかを、本人が判断できる能力を持っていない場合です。ガイダンスは、未成年者のほか、成年被後見人、被保佐人、被補助人を挙げ、そうした場合には親権者や法定代理人などから同意を得る必要がある、としています。お子さんが映る動画では、同意を求める相手が本人とは限りません。
「撮影で取得したから同意が要らない」ではありません
ここは節を分けて書きます。要配慮個人情報を取るときは、原則としてあらかじめ本人の同意が要ります。その例外のひとつが政令に置かれていて、本人を目で見ること、または撮ることによって、外から見て明らかな要配慮個人情報を取得する場合が挙げられています。
ただし、ガイダンスがここに添えている例を見ると、射程が分かります。挙がっているのは、身体の不自由な方が受診したときに院内で共有するためカルテ等へ書いた場面と、その方の様子が施設の防犯カメラに映り込んだ場面です。診療や施設の管理の中で結果として写ってしまう場面についての定めであって、広報のために撮る場面を想定したものではありません。撮影という語が出てくるからといって、紹介動画がここに乗るわけではない、と読んでおくほうが安全です。
撮ったあとに使い道を増やすとき
撮影の同意で、当社が相談を受けて説明することが多いのがここです。待合室で流すつもりで撮った映像を、あとからホームページやSNSに出す場面。個人情報保護法 第17条は、利用目的をできる限り絞って決めることを求めています。第2項は、あとから変えること自体は認めつつ、変える幅に枠をはめました。元の利用目的と関連があると合理的に認められる範囲、そこを越える変更はできません。そして第18条 第1項が禁じているのは、決めた利用目的を達成するのに必要な範囲を越えた取扱いです。越えるには、あらかじめ本人の同意が要ります。
ガイダンスの側も、利用目的を変えたときは、変えたあとの利用目的を本人に通知するか、公表することを求めています。使い道を増やすときは、増やした先を本人に届ける手順が要るということです。そこまでやるくらいなら、撮る前に使う場所を書き出して同意を取っておくほうが、手間としては軽く済みます。
撮影を外部に頼むとき
制作会社に撮ってもらう場合、撮った素材は相手の機材の中に残ります。個人情報保護法 第25条は、個人データの取扱いの全部または一部を委託する場合について、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を求めています。撮影を頼むという契約の中に、素材の保管場所と、いつ消すかを書いておく順番になります。外に任せた仕事について、確かめる役目が医院の側に残る形は、撮影に限りません。感染性廃棄物の処理業者との契約でも、委託したあとに処理の状況を確かめる努力が、医院に求められています。
同意書に書いておく項目
以下は、上に並べた内容から逆算して当社が整理した項目です。条文やガイダンスがこの様式を求めているわけではありません。
- 何を撮るか ── 顔が映るのか、手元だけか、声が入るのか
- どこで使うか ── 待合室のモニター、ホームページ、SNS、紙の印刷物。使う場所を個別に書く
- いつまで使うか ── 期限を書く。書かないと、本人はいつ終わるのか判断できません
- やめたいと言われたときの窓口 ── 誰に、どう言えば止まるのか
- 素材を誰が預かるか ── 医院か、制作会社か。消す時期を決めておく
- 同意する相手 ── 本人か、親権者や法定代理人等か
まとめ ── 同意は、撮る前の設計です
映像と音声は個人情報に含まれ、院内掲示で説明できる範囲は、患者への医療の提供に必要なところまでです。同意の形式は複数の事例が示されていますが、本人が判断できる材料を渡したかどうかが条件になっています。使い道をあとから増やすには、通知か公表という別の手順が要ります。撮影の同意は、書式を用意する作業ではなく、使う場所と期限を先に決める作業です。
参考にした情報源
- 個人情報保護委員会・厚生労働省 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス
- デジタル庁 e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号) ── 第17条、第18条、第20条、第25条
ガイダンスは改正されます。この記事で読んだのは、個人情報保護委員会のサイトで公開されている版です。個別の場面の当てはめについては、同じサイトで公開されているQ&A(事例集)もあわせてご確認ください。治療の前後を見せる内容を含む場合は、医療広告に関する規制も別に関わってきます。
院内を、Googleマップの中へ
受付・待合室・診療室を360度で撮影し、医院のGoogleマップに掲載します。撮影は、お昼休みなど昼間の診療していない時間に伺います。Googleビジネスプロフィールをお持ちでない医院さまは、作成からお受けします。集患と発信全体のご相談は、マーケティング・クリエイティブのページにまとめています。
