衛生士さんが育児休業に入ると決まった。その人が担当していた患者さんの予約と、診療の枠をどうするか。選べる形は大きく2つです。いまいるスタッフで分けて担うか、代わりの人を新しく雇うか。厚生労働省の両立支援等助成金には、どちらの形にも使える「育休中等業務代替支援コース」があります。この記事は、休業の手続きではなく、休業のあいだの人手と費用を、経営の側からどう組むかを並べます。
助成金は、2つの形の両方に用意されている
2026(令和8)年度の両立支援等助成金のご案内によると、育休中等業務代替支援コースは、育児休業を取る人や短時間勤務をする人の業務を代わりに担う労働者に手当を払った場合や、代わりの要員を新しく雇った(または派遣で受け入れた)場合に受けられる助成金です。種別は次の3つです。
| 種別 | どんな場合か | 支給額(リーフレットと手引きの記載) |
|---|---|---|
| ①手当支給等(育児休業) | 育休を取る人の業務を代わりに担う人に、手当を払う | 業務体制整備経費 6万円(育休が1か月未満なら2万円。労務コンサルを外部の専門事業者に委託したときは20万円)/業務代替手当 支給した手当の3/4(助成は月10万円まで・24か月分まで。最大240万円) |
| ②手当支給等(短時間勤務) | 短時間勤務をする人の業務を代わりに担う人に、手当を払う | 業務体制整備経費 3万円(労務コンサルを外部の専門事業者に委託したときは20万円)/業務代替手当 支給した手当の3/4(助成は月3万円まで。最大108万円) |
| ③新規雇用(育児休業) | 育休を取る人の代わりの要員を、新しく雇うか派遣で受け入れる | 最短(7日以上)9万円〜最長(1年以上)81万円 |
リーフレットは、①と②だけは企業規模の要件が無いこと、①から③を合わせて1年度に10人まで、初回から5年間支給されることも注記しています。金額と要件は年度ごとに変わります。使うときは、その年度のリーフレットと支給申請の手引きで確かめてください。
いまいるスタッフで担うなら、手当の決まりが先に要る
リーフレットが①(手当支給等・育児休業)のおもな要件として挙げているのは、次のようなものです。
- 代わりに担う業務の見直しや効率化の取組をする
- 業務を代わりに担う人への手当の制度などを、就業規則などに定める
- 休業する人が7日以上の育休を取り、復帰後も支給申請日まで雇用を続ける
- 業務を代わりに担う人に、実際に手当を払う(払った手当の額に応じて、助成の額が変わる)
ここからは筆者の読み方です。手当の制度は、休業が始まってから慌てて作るより、先に就業規則に置いておくほうが順番として自然です。誰が、どの業務を、どれだけ引き受けたら、いくら払うのか。歯科医院なら、担当患者のメンテナンスを引き受けた衛生士さんや、受付の枠を広げた人が当たります。引き受ける側に報いる形が決まっていれば、「休む人のせいで忙しくなった」という空気を、仕組みのほうで和らげる手がかりになります。
新しく雇うなら、休業の長さで額が変わる
③(新規雇用・育児休業)について、リーフレットは、育休を取る人の代わりの要員を新規雇用か派遣の受け入れで確保すること、休業する人が7日以上の育休を取って復帰後も支給申請日まで雇用を続けること、代わりの要員が育休中に業務を担うこと(担った期間に応じて額が変わる)を、おもな要件に挙げています。
ここからは筆者の読み方です。歯科衛生士の代わりを、休業の期間だけ新しく見つけるのは簡単ではありません。見つからなかった場合に①の形へ切り替えられるよう、手当の決まりだけは先に就業規則に置いておく、という両にらみの組み方もあります。どちらにするかは、休業の予定の長さと、いまのスタッフの予約の埋まり具合で決まります。
引継ぎと復帰の段取りにも、助成金がある
同じリーフレットには、育児休業等支援コースも載っています。育休を取るとき(育休取得時)と、職場に戻るとき(職場復帰時)に、それぞれ30万円とされています。支給申請の手引きによると、このコースの対象は中小企業事業主だけで、取得時・復帰時とも1事業主2回まで(無期雇用と有期雇用の人で各1回)です。おもな要件として挙げられているのは、たとえば次のようなものです。
- 育休の取得と職場復帰の支援についての方針を、社内に知らせる
- 本人と面談して、育休復帰支援プランを作り、実施する
- 休業の開始日の前日までに業務の引継ぎをし、本人が連続3か月以上の育休を取る
- 休業中に、職務や業務の情報・資料を本人に提供する
- 育休が終わる前に、上司か人事労務の担当者が面談し、結果を記録する
- 原則として元の職務などに戻し、申請日までの間6か月以上雇用を続ける
ここからは筆者の読み方です。助成金を受けるかどうかにかかわらず、この並びはそのまま、休業を回す段取り表として使えます。引継ぎの期限、休業中に届けるもの、戻る前の面談。どれも、書いたものが無ければ院長の頭の中にしか残らない部分です。
産前産後の休業や、妊娠中のスタッフへの配慮の決まりは、当社が運営する事務長AIのブログの歯科医院のスタッフが妊娠したら ── 産前産後と線量にまとめています。育休の申出を受けたときの医院側の手続きと期限は、同じブログの歯科医院の育休、断れない ── 医院側の手続きと期限にあります。
申請の前に、窓口で確かめる
リーフレットは、詳しい支給要件や手続き、申請期間は、厚生労働省のホームページを見るか、本社などの所在地を管轄する都道府県労働局(申請先)に問い合わせるよう案内しています。厚生労働省の両立支援等助成金のページには、年度ごとのリーフレットと支給申請の手引きが並んでいます。
支給申請の手引きは、①(手当支給等・育児休業)について、代わりに担う人の手当を増やす賃金の決まりは業務代替期間の開始日までに、育休の制度の定めは育休の開始日の前日までに整えておく必要がある、としています。
ここからは筆者の読み方です。助成金は、要件を満たす形で先に制度を整えてから、休業や手当の支給が起き、そのあとで申請する順番になります。休業が終わってから「使えたはずの助成金」に気づいても、就業規則の定めや計画の作成が間に合っていなければ使えません。休業の申出を受けた時点で、窓口に確かめるのが確かです。
育休の申出を受けたら、院内で決めること
- 休業する人の担当を書き出す。担当患者、予約の枠、受け持っている院内の仕事を並べます
- いまのスタッフで分けるか、新しく雇うかを決める。休業の予定の長さと、予約の埋まり具合を見ます
- 分けるなら、手当の決まりを就業規則に置く。誰が何を引き受けたらいくらかを決めます
- 引継ぎの期限と、休業中に届けるものを決める。開始日の前日までに引継ぎを終える段取りです
- 戻る前の面談の日を、先に入れておく。面談の結果は記録に残します
- その年度のリーフレットと手引きを見て、労働局に確かめる。申請の順番と期限を先に押さえます
どれも院長の手元で並べられることです。そのうえで、助成金の要件の当てはめや就業規則の文面は専門家の領域です。当社は助成金の申請の代行や、労務の判断をしません。都道府県労働局や、顧問の社会保険労務士に確かめてください。
休む人の担当と引継ぎを院内のマニュアルとして残し、シフトと面談の記録を同じ場所に置く道具として、当社は事務長AIを作っています。シフトと面談は、人事労務の画面にまとめてあります。
参考にした情報源
- 厚生労働省・都道府県労働局 2026(令和8)年度両立支援等助成金のご案内(リーフレット) ── 育休中等業務代替支援コース、育児休業等支援コース
- 厚生労働省・都道府県労働局 2026(令和8)年度両立支援等助成金 支給申請の手引き ── 育休中等業務代替支援コースの支給額と支給要件、育児休業等支援コースの対象と回数
- 厚生労働省 両立支援等助成金のページ ── 年度ごとのリーフレットと支給申請の手引き
※ この記事は、上に挙げた資料を当社が確認した時点(2026年9月)の記載だけをもとに書いています。助成金の金額と要件は年度ごとに変わります。最終確認は、そのときの原文でお願いします。個別の当てはめは、都道府県労働局または社会保険労務士にご確認ください。
院長の事務を、ひとつの画面に
発注・経理・勤怠・日報・レセプトの返戻・分院の数字を、ひとつの画面にまとめた歯科医院向けWebアプリ「事務長AI」を、当社で開発・運営しています。歯科経営全体のご相談は、歯科経営支援のページにまとめています。
