「初回無料」は、どこまで書いてよいか

「初回無料」は、どこまで書いてよいか

「初回無料」「初診の窓口負担はいただきません」「ご来院の方に歯ブラシをプレゼント」。集患の広告で見かける書き方ですが、医院がこれを書くと、向きの違う3つの決まりが関わってきます。保険診療の決まり、医療広告の指針、景品表示法です。しかも、何を無料にするかによって、読むべき条文が変わります。この記事は、3つの原文を読んで、その分かれ目を並べます。

目次

最初に、何を無料にするのかを分ける

ここからは筆者の整理です。この記事では、「無料」と書いたときに無料になっているものを、次の3つに分けて読みます。

  • 保険診療の窓口で払う自己負担(一部負担金)
  • 自由診療の料金や、相談・カウンセリングの料金
  • 診療とは別に渡す物(歯ブラシ、グッズなど)

同じ「無料」の2文字でも、どれを指しているかで、開く条文が違ってきます。広告の文面を考える前に、まずここを1行で書き出しておくと、あとの確認で迷う場所が減ります。

保険の自己負担は、受け取る側の決まりとして書かれています

保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則)第5条第1項によると、被保険者または被保険者であった者について、保険医療機関は、健康保険法第74条による一部負担金などの支払を受けるものとされています。被扶養者の場合は同じ項の後半に定めがあり、家族療養費の支給額に相当する額を差し引いた額について、支払を受けるものとされています。

同じ規則の第2条の4の2は、見出しが「経済上の利益の提供による誘引の禁止」です。療担規則第2条の4の2第1項によると、保険医療機関は、自院で診療を受けるよう患者を誘引してはならず、その手段として挙がっているのが、健康保険事業の健全な運営を損なうおそれがある経済上の利益を患者に提供することです。例として先に置かれているのは、第5条の規定によって受け取る費用の額に応じて、医院の収益業務の物品について対価を値引きすることで、この例は「その他の」で大きなくくりにつながっています。

第2項は、相手が患者ではありません。療担規則第2条の4の2第2項によると、事業者か、その従業員に、患者の紹介の見返りとして金品を渡すことが、例として挙がっています。こちらの例も「その他の」で第1項と同じ種類の大きなくくりにつながれていて、保険医療機関は、それによって患者が自院で診療を受けるよう誘引してはならない、とされています。

ここからは筆者の読み方です。「初診の窓口負担はいただきません」と書けば、第5条の「支払を受けるもの」という定めと向き合うことになります。窓口で歯ブラシなどを売っている医院なら、自己負担の額に応じて物販を値引きする組み立ては、第2条の4の2第1項が例に挙げている形に近づきます。どこからが誘引に当たるかの線は、この規則の文面だけでは引けません。保険診療の自己負担を動かす企画は、広告を作る前に、地方厚生局に確かめてください。

医療広告の指針は、費用を前に出す広告を挙げています

厚生労働省の医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)は、医療法と省令で禁止されている広告を並べたあとに、それとは別の枠を置いています。品位を損ねる内容の広告のように、医療広告にふさわしくないものも、厳に慎むべきだ、という書き方です。

その中身は、同じガイドラインの第3-1の(8)にあります。品位を損ねる内容の広告の1つ目に挙がっているのが、費用を強調した広告です。具体例として並んでいるのは、キャンペーンを実施中だと知らせるもの、期間を限って割り引くもの、元の値段と下げた値段を並べるもの、治療のし放題をうたうプランです。

2つ目は、提供される医療の内容と直接関係のない事項による誘引です。ガイドラインは、医療の内容と直接関係のない情報を強調して患者等を誤認させ、不当に誘引する内容については、広告を行うべきではない、としています。具体例は、無料相談をした人全員に物を贈るという広告です。物品を贈ることなどを誇張するのは、医療の内容と直接関係のない事項として取り扱う、と添えられています。

費用の表示は、誇大広告の具体例にも出てきます。美容外科の自由診療の費用の例で、大きく表示した値段が5カ所以上を同時に受けたときのもので、1カ所だけなら倍近くかかるという場合です。小さな文字で注釈を付けていても、その広告物からは注釈を見落とすと常識的な判断で認識できるなら、誇大広告として取り扱う、とされています。

ここからは筆者の読み方です。費用を強調した広告の例には、「無料」という語そのものは出てきません。一方で、物を贈る例のほうには、無料相談が出てきます。「初回無料」は、費用のことを前に出して患者を呼ぶ書き方で、ガイドラインが挙げた例と同じ方向を向いています。そして「次回からは通常料金」「条件あり」を小さく添える作りは、誇大広告の例に近い形になります。条件は、値段と同じ大きさで書けるかどうかが、ひとつの目安になります。自由診療の料金の見直しを患者に伝えるときの話は、当社の別の記事でも扱っています。

景品表示法では、値引きか、おまけかで読む場所が変わります

不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)第2条第3項によると、景品類の中身は内閣総理大臣の指定で決まります。指定の対象になるのは、事業者が顧客を誘引する手段として、自分の供給する商品や役務の取引に付随させて相手方に渡す、物品、金銭その他の経済上の利益です。同法第4条によると、不当な顧客の誘引を防ぎ、一般消費者が自主的かつ合理的に選べるようにするために必要だと内閣総理大臣が認めるときは、景品類の提供について、価額の最高額や総額、種類、提供の方法などを制限できるほか、提供そのものを禁止することもできます。

指定の中身は、景品類と表示を指定する告示に書かれています。告示は、条文の言い方に「方法のいかんを問わず」を加えて景品類を定め、その種類を4つの号に分けて並べています。1号は物品や土地・建物など、2号は金銭や商品券などの有価証券、3号はきょう応(催物への招待や優待を含む)、4号は便益、労務その他の役務です。物だけでなく、無料の施術やクリーニングのような役務をおまけとして付ける場合も、この4号の側から景品類に当たりうる、と筆者は読みます。そのうえで告示は、ただし書きで外すものを置いています。値引き、アフターサービス、その取引の商品や役務への附属の3つで、いずれも、正常な商慣習に照らしてそう認められるものが景品類から外れます。

消費者庁の景品類等の指定の告示の運用基準には、「無料」の書き方に直接ふれた箇所があります。4の(5)によると、1つの取引で2つ以上の商品や役務を提供していても、組み合わせて売っていることが明らかな場合などは、原則として取引に附随する提供に当たりません。ただし、懸賞で提供する場合と、相手に景品類だと受け取られるような仕方で提供する場合は附随に当たるとされ、後者の例に「○○プレゼント」と並んで「○○無料」が挙がっています。同じ4の(7)は、自分の商品や役務の購入者を紹介してくれた人への謝礼を、取引に附随する提供に当たらないとしています。ただし、紹介者をその商品や役務の購入者に限る場合は、この扱いから除かれています。

値引きの側は、運用基準の6にあります。6の(3)が原則として値引きに当たるとしているのは、支払うべき対価を減らすこと、支払った代金を割り戻すこと、同じ対価で同一の商品や役務を付け加えることで、どれも取引通念上妥当と認められる基準に従うことが前提です。付け加えるものが実質的に同一でない場合はこの付加に当たらないとされ、ハンバーガーを買ったらフライドポテト無料、という例が挙がっています。6の(4)は、対価を減らしたり割り戻したりする場合でも、懸賞による場合などは値引きに当たらない、としています。あわせて5の(2)は、商品や役務を通常の価格よりも安く買える利益も、経済上の利益に含まれる、としています。

景品類に当たる場合、どこまで出せるのか。消費者庁の景品規制の概要によると、懸賞によらずに提供される景品類は総付景品と呼ばれ、利用した人や来店した人にもれなく渡す金品がこれに当たります。購入の申し込みの順や来店の先着順で渡すものも、総付景品に当たります。景品類の最高額は、取引価額が1,000円未満なら200円、1,000円以上なら取引価額の10分の2とされています。

この取引価額の決め方は、消費者庁の「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準の1にあります。購入額に応じて渡すなら、その購入額が取引価額です。購入を条件とせずに店舗への入店者に渡す場合は、原則として百円とされています。その店舗でふだん行われている取引のうち、いちばん低い価額が百円を超えると認められるときは、その価額を取引価額とすることができます。ダイレクトメールで特定の種類の商品や役務を案内し、それに応じて来た人に渡すなど、対象をその商品や役務に限っていると認められるときは、その価額を取引価額として扱うとされています。来院した人に渡す物の上限を、その日の診療費から計算してよいとは限りません。

表示の側にも条文があります。景品表示法第5条第2号によると、事業者は、価格その他の取引条件に関する表示のうち、次のようなものをしてはなりません。実際のものよりも、または同種・類似の役務を供給するほかの事業者のものよりも、取引の相手方にとって著しく有利だと一般消費者が誤認するもので、不当に顧客を誘引して、一般消費者が自主的かつ合理的に選ぶのを妨げるおそれがある、と認められる表示です。

ここからは筆者の読み方です。自由診療のカウンセリングの料金をいただかない、という企画は、その役務そのものの対価を下げる話なので、運用基準の値引きの側から読むことになります。来院した人に歯ブラシやグッズを渡すのは、診療とは別の物を付けて渡す話で、景品類の側から読むことになります。相手が保険診療の患者なら、景品表示法だけでは終わりません。療担規則第2条の4の2第1項は、値引きの例のあとを「その他の」経済上の利益の提供へと広げていて、物を渡すこともそこに当たりうるからです。保険診療の患者に物を渡す企画は、地方厚生局にも確かめてください。紹介してくれた人を患者に限ってお礼を渡す形は、運用基準の4の(7)の括弧書きの場合に近づき、取引に附随する提供として景品類の上限がかかりうるうえ、療担規則第2条の4の2第1項の側からも読むことになります。ただ、運用基準の6の(1)は、値引きに当たるかどうかを、取引の内容、利益の内容、提供の方法などを勘案して判断するとしています。どちらに当たるかは、書き手の側で決められるものではありません。迷うときは、企画の段階で消費者庁の相談窓口に聞いてください。

広告を作る前に、確かめること

以下は、上に並べた原文から当社が整理した確認の順番です。どの規則もこの順序を定めているわけではなく、これですべてでもありません。

  1. 無料にするのは何か、1行で書く。保険の自己負担か、自由診療や相談の料金か、診療とは別の物か
  2. 保険の自己負担にふれるなら、先に地方厚生局へ。療担規則の第5条と第2条の4の2を手元に置いて聞く
  3. 物を渡すなら、その物の価額と取引価額を数字で書く。総付景品の最高額は、取引価額から決まります。来院しただけの人に渡すときの取引価額の決め方は、総付景品の運用基準の1で確かめる。保険診療の患者に渡すなら、療担規則第2条の4の2第1項のことも地方厚生局に聞く
  4. 条件を、値段と同じ大きさで書けるか見る。対象の治療、回数、期間。小さな注釈で補う作りは、ガイドラインの誇大広告の例に近づきます
  5. キャンペーン、期間限定、元の値段と下げた値段の並記が入っていないか見る。ガイドラインが費用を強調した広告の例に挙げている形です
  6. 紹介のお礼を考えているなら、渡す相手を確かめる。相手が事業者またはその従業員なら、療担規則第2条の4の2第2項を読む。相手が患者なら、景品類等の指定の告示の運用基準の4の(7)と、療担規則第2条の4の2第1項を読む

まとめ ── 「無料」の2文字に、3つの決まりが関わる

保険の自己負担については、療担規則が、医院が支払を受けるものとして書いています。医療広告等ガイドラインは、費用を強調した広告と、医療の内容と直接関係のない事項による誘引を、医療広告としてふさわしくないものとして挙げています。景品表示法は、値引きか景品類かで読む場所が変わり、景品類なら最高額の枠があり、表示の側には取引条件の誤認についての条文があります。1つの決まりで確かめたことは、ほかの2つで確かめたことにはなりません。文面を磨く前に、何を無料にするのかを決めて、3つの決まりを順に開く。そこが出発点です。

参考にした情報源

この記事は、無料をうたう広告にかかわる条文と指針を並べたもので、個別の企画が決まりに当たるかどうかを判断するものではありません。保険診療の取り扱いは地方厚生局に、医療広告は所管の保健所に、景品類と表示は消費者庁の相談窓口にご確認ください。条文と指針は改正で変わります。

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受付・待合室・診療室を360度で撮影し、医院のGoogleマップに掲載します。撮影は、お昼休みなど昼間の診療していない時間に伺います。Googleビジネスプロフィールをお持ちでない医院さまは、作成からお受けします。集患と発信全体のご相談は、マーケティング・クリエイティブのページにまとめています。

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この記事を書いた人

近藤 宏海のアバター 近藤 宏海 代表取締役

近藤 宏海(こんどう ひろみ)/株式会社ガラパゴスワークス 代表取締役。歯科医院の開業から日々の運営まで、事務の現場を担ってきました。自社で歯科医院向けのWebアプリ「事務長AI」と、歯科医師向けアプリ「シカノバ」を開発・運営しています。

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